第五十二話 静まれ俺の表情筋

 次の日俺たちは冒険者ギルドに行き、キュクロープス討伐完了の報告をした。
「そうだヨーランさん、こちらを」
 俺は頃合いを見計らってハナちゃんから預かった手紙をヨーランさんに渡す。
 今日もステルスハナちゃんだから見えてないだけで実際はこの場にいるんですけどね。
「なんじゃ、手紙?」
 話せないならせめてって思い付いたハナちゃんがせっせと書いた手紙です。
「はい、ハナから預かって来ましたのでお時間がある時にでも」
『よろしくお願いします(ぺこり)』
 手紙の内容は直接挨拶出来ていないことへの謝罪とか何か要望があれば気軽に伝えて欲しい旨とかだって。アロマテラピーサシェについての簡単なアンケートも添えたって言ってたな。
 てか見えないけど今ハナちゃん絶対お辞儀したでしょ。
「おお、そうか! あの香り袋はすごい効果じゃのう。使い始めて2日なのに腰が軽いわい」
『よかった、それは何よりです……!!』
 例によってハナちゃんの念話はヨーランさんには聞こえない。もどかしいなぁ。
 一回くらいはちゃんと挨拶したいよね、お互いにさ。
 まだ喋れないけど少し顔を出すくらいなら大丈夫か?
 あとでハナちゃんに相談してみよう。
 キュクロープスと一緒にいくつか魔物の解体をお願いしたら予定通りスイの新しいスキルを確認しに街の外へ行くぞ。
 冒険者ギルドを出て門に向かいがてらハナちゃんが言う。
『フェル様、私もかなりの時間をかけないと喋れるようにはならないんでしょうか……?』
 そう言えばさっきうっかりフェルが人前で喋ったからそんな話になったんだよな。
 世間的には人語を理解して喋る魔物は長命かつ伝説級の魔物、フェンリルと 古 龍 エンシェントドラゴンくらいしかいないだろうっていう認識らしい。
『む? そんなわけなかろう。 古 龍 エンシェントドラゴンの爺婆なんぞは有り余った時間の中で人語を理解し喋ることが出来るようになった、というだけだ』
 不安そうなハナちゃんをフェルがバッサリ否定する。
  古 龍 エンシェントドラゴンを爺婆なんぞって言ったよこの伝説級の魔獣さん。
『ハナは転生者、元人間ゆえに最初から言葉は理解しておるだろう』
『はい』
『ならば、ハナが話せないのはハナ自身がまだアルラウネの体を理解していないからだ。以前もアルラウネは人語に似た鳴き声を発すると言ったな? それすら出来ておらんのはそういうことだ』
『確かに……昔の自分とは違う、って頭ではわかってるんですが……きちんと理解してるかと言われますと、出来ていないと思います』
 なるほど。ハナちゃんが話そうとしても口パクになってるのはあくまで今までと同じように人の感覚で喋ろうとしてるからで、きちんとアルラウネとして喋ろうとしたらあるいは……ってことか。
『フンスッ。そう心配するでない、ダンジョンに行けばいいのだ』
 え? ダンジョン?
 なんでそこでダンジョンが出てくるんだ?
 気になって聞いてみたらフェル曰く、アルラウネの自覚を強めるには戦いに身を置いた方が手っ取り早いんだってさ。連戦を重ねれば余計な思考も削ぎ落とされ、戦いの中で自ずと理解が深まっていく……ってホントかよ?
 ダンジョンに行きたいからって口実を増やしたんじゃないだろうな。
『イビルプラントを倒す時に覚えた吸収ドレインはアルラウネの十八番だぞ? やはり己の体を駆使して戦うのが一番ということだ』
『なるほど……! あ、じゃあ少しは理解が進んだってことですか!?』
『馬鹿者。持て余した体力と魔力を制御し切れずに花が勝手に咲いたのを忘れたか』
『そ、そうでした……』
『うむ。猛省し次に活かせ。訓練とは己の体を理解することだと知るがよい』
『は、はい! ありがとうございます、フェル様』
 すっかり師匠面ですねフェルさんや。
 うーん、一応筋は通るな。この前の戦いでアルラウネっぽいスキルを覚えたのは確かだし。
 や、やっぱりダンジョン行かなきゃダメ?
 ハナちゃんに進化の可能性もあるわけだし経験値は欲しいところだが、俺的には避けて通れるなら全力で避けたいんですが。ぐぬぬ。
 俺は若干思い悩みながら街の外に出ました。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 スイの“超巨大化”スキルを検証した後でそのまま街の外でBBQしてたら、冒険者の少年少女たちと出会った。
 全員ネイホフの街に住んでるらしく、成り行きで明日案内してもらえることになったよ。
「それじゃ、また明日」
 軽く挨拶して”嵐の使者ストームブリンガー”の5人と別れる。
『また明日ー』
 5人に向かってハナちゃんが嬉しそうに手を振った。
 そう、ステルス解除ハナちゃんです。
 街の外だったからステルス解除状態で出くわした、とかじゃないぞ。フェルが気配を察知した時点でまたスキルを使ってればもちろん姿は隠せてた。
 ちゃんとステルスを使わないエンカウントを俺とハナちゃんで選びました。
 ちょうどヨーランさんに挨拶しに行きたいよねって話してたところで、いい予行練習になりそうだってことが決め手になった。
 元々「あの子どこ行ったの?」って思われないためにも程々に姿を出していく予定だったからな。
 ステルスの使いすぎもちょっとね。ハナちゃんは出入国の際はきちんとギルドカードを提示してるし、ヨーランさんがご存知だったように各街のギルドにハナちゃんのことも多少は周知されてるはずだし。
 結果的に予行練習どころか一緒に買い物に行くことになったからステルス解除してよかったな。
 肝心のハナちゃんが話せない理由もとい言い訳、サイレントバットに替わるいい感じの捏造設定はと言うと。
 思い付きませんでした。
 もういっそシンプルに「今は訳あって話せないけど直に治るので大丈夫、お気になさらず」ってさらっと言った方が変に突っ込まれないんじゃないか? っていう結論に至った。
 サイレントバットにはハナちゃんが俺たちのパーティーに加入する切っ掛けになったっていう真っ赤な嘘だけは背負ってもらうが、こうして原因を曖昧にしておけば何度も濡れ衣を着せなくて済む。
 そして治ると明言することにより大事には至らない、何かしら処置済なんだって勝手に思ってくれるはず。 
 これが読み通り上手くいった。
 とくに怪しまれなかったし「そうなんですね、お疲れ様です」って普通に流してもらえた。やったぜ。予行練習はバッチリでした。
 フェルが言うように本当にダンジョン攻略で喋れるようになるかはさて置き、しばらくこの言い回しでやってみようと思う。
 もちろん突っ込まれた時にフォローする準備もしておくぞ。
 なので明日はまず冒険者ギルドに行って報酬と買取代金と肉その他を受け取り、ハナちゃんとヨーランさんの顔合わせ。
 それから”嵐の使者ストームブリンガー”の5人に街を案内してもらって観光と買い物だ。
『はしゃぎ過ぎてまたスキル使うなよなー』
『はあい』
 ドラちゃんがまたハナちゃんの頭に乗って注意してる。
 さっきの言い回しでステルスの使用頻度は減らせそうだけどスキル暴発はハナちゃん的にも気を付けたいそうなので、少しずつ様子見していくってさ。
 今日は”嵐の使者ストームブリンガー”と一緒に帰ってきたし明日もステルスなしは確定なんですが。
『明日、楽しみですねっ!』
「そ、そうだね」
 ハナちゃん、超ご機嫌。
 なんならBBQの時からずーっとニコニコしてますこの子。
 Aランクって知られて少年少女たちがキラキラした目で俺を見てきたんだが、それを更にキラキラした笑顔で見守ってたもんな……ハナちゃん……。
 正直俺のランクはほぼみんなのおかげで自力じゃないからさ、駆け出しの冒険者からそんな眼差しを向けられてもちょっと罪悪感っていうか、そこまで誇れないっていうかさ。
 で、でもハナちゃんは今までも『向田さん“も”! すごいんですからね!』って何回も伝えてくれてるんだよ。
 つまりあの時のキラキラした笑顔は『そうでしょう、向田さんすごいでしょう!』っていう意味なのがもう見てるだけでわかったしなんなら念話にも出てた。
 わかるか俺の気持ち。
 嬉しむず痒照れくせぇぇっ。
 いかん、顔が勝手にニヤける。し、静まれ俺の表情筋。いつまでもニヤニヤしてたらハナちゃんに悪いだろっ。
『(明日は向田さんと一緒にお買い物、しかもステルスなしで……!! ……わーーっ!!)』
『おい、なんかまた咲いてねーか?』
『わーーっ!?』

 ……この後ハナちゃんは毎晩イメトレに励むことを誓い、やはり自分の体とスキルを制御出来るまではなるべくステルスを使っていくと猛省してました。
【注・うっかり咲いた花はドラちゃんが食べて証拠隠滅してくれました】

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