第五十三話 牛皿と卵の朝定食

 買い物に行くにあたって朝飯は普段よりちょっと遅めにした。みんなすぐ腹減ったーって言うんでね。
 ネイホフに来てから依頼を受けて討伐しかしてないし、どうせならゆっくり街を見て回りたいからな。
 フェルとスイとドラちゃんはいつものように朝から肉。
 簡単にネットスーパーで買った塩ダレでブラッディホーンブルを炒めてたっぷりネギを乗っけたネギ塩牛丼にしてみた。仕上げにゴマを振りかけて、トッピングは丼物定番の温泉卵。
 どうも最近肉巻きおにぎりとかBBQで焼き肉のタレが続いてたんで少し路線変更だ。焼き肉のタレ、万能選手だからってつい多用しがち。
 がっつり肉だけどさっぱり味付けで好評だったよ。フェルには相変わらず野菜いらないって言われたけどね。仕方なくおかわり分からはネギ抜きで作ってやったぜ。
 俺とハナちゃんはネギ塩牛皿と卵だ。一昨日ハナちゃんにリクエストを聞いて焼き魚定食を作ってからチェーン店の朝メニューっぽいやつを作るのが面白くなってさ。
 当然味噌汁と味付き海苔とハナちゃん作浅漬けも添えました。
「ご飯は大盛り・おかわり無料です」
『お味噌汁は追加料金で豚汁に変更出来ます』
 フフ、あるある。作り置きしてた豚汁がほんの少しだけあったんで本当に出したらツボったハナちゃんがずっとくすくす笑ってたよ。
 朝から楽しそうで何よりです。もちろん追加料金は頂きません。
 食休みしたら冒険者ギルドに向かう。
『晴れてよかったですねぇ』
「そうだね、いい天気だ」
 家を出る段階からステルスが解除されてるのは何気に初。
 いつもならステルスを使うとほぼ同時に蔓と手を繋ぐんだけど、今日はそれがないからなんか変な感じだ。ハナちゃんが転生してから3週間くらいになるし、もうすっかり習慣になってたんだなぁ。
『今日は咲いても食ってやんないからな、勝手に咲かせないようにしろよー?』
『うっ。はい……き、気をつけるね……』
 ドラちゃんがハナちゃんの周りを旋回しながら言った。
 どうも昨日は観光と買い物が楽しみすぎて咲いちゃったらしい。やっぱりハナちゃんの気持ちや感情と連動してるっぽいね。
『えー、じゃあスイが食べてあげるねー』
『スイちゃん……!!』
『おい、甘やかすでないぞ』
 うむ、俺の従魔たちが仲良し。
「が、頑張ろうハナちゃん」
『が、頑張ります!』
 俺には応援することしか出来ないが、いざとなったら助け舟を出せるようにしとこっと。ドラちゃんとフェルが厳しくしようとしてるからスイと俺は甘くてもいいでしょ。バランス大事。
 冒険者ギルドに入るとギルドの職員さんが俺の顔を見るなり連絡してくれたんで、すぐにヨーランさんがやって来た。
「おー、待っておったぞ。ん? お主がハナさんかの?」
「(こくり)」
 ハナちゃんに気付いたヨーランさんが早速声をかけてくれる。
 結論から言うと二人の対面は一切問題ないどころか俺がフォローを入れる隙すらなくつつがなく終了しました。
 いやさ、元々アロマテラピーサシェの効果に感激してたヨーランさんだけど、前日に手紙を渡してたのも手伝ってか久々に帰ってきた孫娘を出迎える爺さんみたいになってて……。
「フォッ、フォッ、フォッ、いやぁよく来たのう! 用事はもう済んだかの?」
「(こくこく)」
「それはよかった、ネイホフの街はどうじゃ? 不便があったらすぐ儂に言うんじゃぞ、なに遠慮するでない、あの香り袋の礼には足りないくらいじゃ」
「!!(こくこくこく)」
 ずっとこんな感じでハナちゃんが喋らなくても会話(会話?)が成立。まあハナちゃんて身振り手振りと顔に思ってることが全部出るしなぁ。結果オーライ。
『無事にご挨拶出来ました!』
『よかったねぇ』
 念話ではしゃぐハナちゃんに念話で返した。やっと直接ヨーランさんと会えて嬉しそうだ。俺としてもハナちゃんの交流関係が広まるのは嬉しいね。もちろんハナちゃんが嬉しそうなのもな。
 その後倉庫に移動して肉とキュクロープスの買取代金と討伐報酬を受け取った。
 それとはまた別にヨーランさんが個人的にアロマテラピーサシェの代金を渡そうとしたが、ハナちゃんはこれをやんわりと拒否。
 実はウゴールさんも同じように支払ってくれようとしてたんだけど、あくまで試作品だからって断ったんだよね。もちろんハナちゃんの意向です。
 今回も同じ理由で俺からさり気なく説明したらヨーランさんも一応は納得してくれて、手紙に同封したっていうアンケートだけハナちゃんに渡してたよ。
 ヨーランさん、ギルドマスターで忙しいだろうに昨日の今日で早速書いてくれたんだな。
 正式に販売する際は是非教えて欲しいってさ。当然ハナちゃんは快諾。
 ドランではウゴールさんと約束して、ネイホフではヨーランさんとか。
 狙ってやってるわけじゃないのに着々とギルドの重役と知り合いになっていくハナちゃん、商人としてはかなりの強みだよな。ウゴールさんもヨーランさんもいい人だし、ハナちゃんの後ろ盾になってくれそう。
 思ったんだが、ハナちゃんが喋れるようになってアルラウネの体やスキルを制御出来るようになったら、それはつまり普通の人間として、普通の女の子として生活出来るってことだよな。
 そうなったら近い将来、ハナちゃんに恋人が出来る可能性は高い。
 だってハナちゃんだぞ。話せるようになったらもっと他人とコミュニケーションが取れるようになるし、そしたら誰も放っておかないでしょ。ちょっと頑固だけどよく気がついてくれるし優しいし、身内の贔屓目を差し引いても可愛いしモテると思うんですよ。
 で、恋人が出来たとしたらいつまでも俺の従魔でいるわけにはいかないし、もしかしたら俺たちのパーティーを抜ける日が来るかもしれない。
 その時のためにも頼れる知り合いが多い方がいいよね。
 人脈は商売の武器にもなるしさ。
 ハナちゃんはここがいいって転生先を選んでくれたけど、これからずっとハナちゃんが俺の従魔でいることとはまた別問題だと俺は考えてる。
 だからハナちゃんに恋人が出来た時は…………笑って送り出してあげたいよ。
 うっ、なんで俺想像で泣きそうになってるんだ? こ、これが娘を嫁にやる父親の気持ちかっ? い、一応俺も育ての親ってなるのかこの場合。なんか胸までちょっと痛いわ。
『……? 向田さん、どうかしました?』
「な、なんでもないよ。買い物楽しみだね」
 こっちを覗き込んでくるハナちゃんに慌てて取り繕った。ヤベェ、顔に出てたのか。
 ハナちゃんは『はい! 楽しみです!』と元気よく返事して『もし具合が悪かったら言って下さいね』って言ってくれた。
 うむ、やっぱりハナちゃんはいい子。
 将来どうなるかはともかくとして、せめてハナちゃんのダッチワイフっていう不名誉な職業だけでも俺がどうにかしてあげたい。
 ハナちゃんは納得して転生したって言ってたがこればっかりは俺の責任だからな。
 それだけ決めると俺は気持ちを切り替えた。
 暗い顔してたら心配かけちゃうからね。
『待ち合わせはギルドの前でしたよね』
「そうそう、まだ早い時間だけど来てるかな?」

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