閑話 残念ながら花言葉は覚えてません

 今日はイビルプラント討伐のため、ネイホフの街から西にある森にやって来ました。
 私はフェル様とドラくんと一緒にひたすらイビルプラントを倒します。
 今回は向田さんとスイちゃんとの2チーム編成。
 かなり大量発生しているらしいので、向田さんは二手に分かれて駆除した方が効率がいいと考えていたそうなんですがね。
 “除草剤”を使ってみたいとのことで、私の体に障るといけないからって配慮もしてくれたんですよ。
 向田さんは、ほんとうに、やさしいなあ……!
 心配されてうれしくてニヤニヤが止まらない。き、気を引き締めなくちゃ。
 いっぱい! 倒します! ええ! それはもう!
『む、ハナは随分と張り切っているな。その意気だ』
 ぶわっとやる気と一緒に魔力を漲らせていると、フェル様が声をかけてくださった。
 はいフェル様! 今日もフェル様はすべすべさらさらでしっとりきらきらのもふもふです!
 私の機動力が遅いので、畏れ多くもまたもや背中に乗せさせて頂いてます。ありがたや……ありがたや……。
 今は森の中をフェル様とドラくんにしてはゆっくり目に走って、イビルプラントをある程度集めているところ。
 移動しながらざくざく倒すことも出来ますが、向田さんから魔石の回収も頼まれています。
 だったら『拾いやすい環境を作った方が面倒がないだろう』というフェル様のご判断でした。流石フェル様。
 イビルプラントは動くものに集まってくるそうなので……ちら、と後ろを振り向くと、長蛇の列が出来ている。
 わあすごい。うごうごしてる。
 はっ。これ、もしかしなくても植物VS植物では!?
 俄然やる気がわいてきた! 同じ植物として負けるわけにはいかない!
『そういやハナが戦うとこ見るの初めてだな。どれくらい強いんだ?』
 並走して飛んでるドラくんにそう聞かれた。そっか、ドランからネイホフの道中ってとくに何事もなかったし、一緒に戦うのは確かにこれが初めてだね。
 で、でもどれくらいと言われると言葉に困る……。
 この前一気にレベルアップしたけれど、自分がどの程度の強さなのかは……わ、わかりません。
『……フェル様、私はどれくらいなんでしょうか……?』
『おいおい、大丈夫かよ』
 私の戦いぶりを知るフェル様に助けを求めると、ドラくんに呆れられた。面目ないです。
『ううむ……やる気は買ってやらんでもないが、己の実力を把握出来ないようではいかんな。風魔法と戦い方はこの我が直々に指南してやったと言うのに』
『か、返す言葉もございません!! そうですよね、フェル様直伝とあってはフェル様に恥じぬ力をつけないとっ、ってわあ!?』
 そこで少し開けた場所に出たと思ったら、フェル様が突然ぴたっと立ち止まる。
 なんだっけ、慣性の法則だっけ?? 私はそのまま宙に放り出されたのでくるっと回り、蔓でバランスを取って着地しました。
 ……あ、己の実力を把握しろってこういうことです!?
 あんまり生前の記憶はない私でもわかる、こんなアクロバティックな動きは出来なかったと思う。アルラウネの体ってすごいなぁ。
 感心している間に、すっかりイビルプラントに取り囲まれた。
 いっぱい集めることが出来たみたいで、ぎゅうぎゅうにひしめき合ってる。森が動いてるみたい。
『よしハナよ、今日は風魔法を使うのを禁ずる。何が出来るかをよく考えながら戦い、己の力を理解するのだ。いいな?』
『は、はいっ! わかりましたフェル様っ!!』
 また無茶振りが過ぎません? そう思いつつ口から出たのはハキハキと元気のいい返事でした。や、やってみせます、フェル様のご指導とあらば。
『まあ多少時間はかかるかもしれんが、イビルプラント程度ならハナ一人でも問題なかろう』
『ふーん、フェルがそう言うなら大丈夫か。頑張れよハナ』
『ありがとうドラくん、頑張るね!!』
 ビュンッと加速してドラくんは風魔法を体に纏わせて、イビルプラントの塊に突っ込んでいった。
 ドラくん、最初に『ハナもいるんならしゃーねーなぁ、今日は火魔法控えといてやるぜ』って言ってくれたんだよね。やさしいなあ。
 よーし、いっぱい倒すぞー!
 風魔法なしでとなると、やっぱり使えるのは蔓だよね。
 目の前でうごうごしてるイビルプラントは大きくて、2メートルくらいはありそう。
 複数の根っこを動かして、植物だけど自走できる魔物。
 ……私も『擬態』を解除したらこんな感じの見た目なのかも。
 さっきから何本も蔓……蔦? あれ、どう違うんだろう……? とにかくにょろにょろ伸びてくるそれが私を捕まえようとしてる。
 あんまり早くないから、避けながらどう戦うか考えなくちゃ。
 最初にコカトリスを仕留めた時は、ぐるぐる巻きにして絞殺したんだよね。
 何が出来るかよく考えてってフェル様にも言われたことですし、違う戦い方を探さないと。
 ええと。私の蔓は力も強い、丈夫、伸縮自在、火はちょっとだけ克服した、先端が割れ開くことが最近判明した、ちょっとエイリアンみたい……あ。
 そうだ、割れ開くようになったんだった。
 何か攻撃に活かせないかな? エイリアンならこう、ぱかっと開いてがぶっと食べたりずずっと啜ったりするし。
 とりあえず突き刺してみよ。
 えい。
 あ、イビルプラントの茎、意外とやわらかい。これなら風魔法使わなくても、蔓を鞭みたいに振るうだけで倒せそう!
『え?』
 そう思った矢先、蔓を突き刺したイビルプラントがしおしおと萎びていった。
 同時にお腹の底からかーっと何か湧き上がってくる感覚がする。
 見れば、突き刺した蔓はまるでごきゅ、ごきゅ、と喉を鳴らすように動いていた。
 もしかして、す、吸っていらっしゃいます?
 ……さっき、がぶっと食べたりずずっと啜ったり、って思ったから?
 すごいなあ私の蔓、リクエストに即時対応してくれる。
 何吸ってるんだろうこれ。枯れてるところ見ると養分とかかな? なんだか元気が出てくるし!
 じゃあ1本は吸い取って倒して、もう1本は鞭みたいに振り回して倒して、臨機応変にやってみよう。
 頑張るぞー!
 いっぱい倒して、向田さんのお役に立ちたいですからね!

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ……とかって、張り切りすぎたのがよくなかったんでしょうね。
 まさか吸えば吸うほど体力も魔力も蓄えられるなんて思いませんでした。おかげで嫌になるほど髪中に花を咲かせてしまうなんて……。
 花が咲いたのは戦い終わった後だったので幸いでしたが、いやほんとうに邪魔で邪魔で!
 勝手に際限なく咲くし、前も見えなくなるし、わさっと重くなるし!
 あとちょっと、私の感情に呼応するみたいに咲くのも恥ずかしいですし!?
 取り乱してスカートがめくれそうになるほどの風魔法を使おうとした件は謹んでお詫び申し上げました。
 たいへん……申し訳なく……はい……ごめんなさい……。
 ……ちなみに今回の戦い方は一応、フェル様から及第点を頂きました。
吸収ドレインとはなかなかアルラウネらしいスキルを覚えたな。やはり倒すまでに多少時間はかかったが、何度も繰り返し使ううちに速度も上昇するだろう。精進するのだぞ』
 とのこと。有り難きお言葉。
 ただ花が勝手に咲くことは『制御が出来ておらん、やはりアルラウネの自覚が薄い!』と叱られましたが……。
 そう、どうしても「私」じゃなくて「私の蔓」って感覚なんですよね。
 もっと「私!」って思いながら戦わなくちゃなぁ。
 ドラくんからは『まあまあだったぜ。思ったよりやるじゃねーか』って言ってもらえたけど、フェル様同様『自分がアルラウネって忘れんなよな』ってダメ出しも頂きました。
 が、頑張ろう、うん。
 今はお昼ご飯をみんなで食べてゆっくり休憩しているところ。
 今日もおいしかったなぁ。「全部が作り置きしてた料理の残り物なんだけどさ」って向田さんは言いますが、そもそもこんな品数をたくさん作り置きしている時点でものすごく……えらい! すごい! ってことをもっと思い知ってほしい……。
 もちろん毎日のことですが、『いただきます』と『おいしいです』と『ご馳走様でした』は全力でお伝えしましたとも。
 咲かせ過ぎた花はご飯の間、ブルーシートに広げて乾燥させてました。
 ううん、我ながらなんてご都合展開なスキル。こんな短時間でドライフラワーになる花なんて普通ないよね。
 ドライフラワーを回収しようとしたら、向田さんが「これ使って」って大きいサイズのビニール袋を出してくれました。
 麻袋だとせっかく綺麗なドライフラワーがぼろぼろになっちゃうからって。
 そして当たり前のように、袋に入れるのを手伝ってくれるんですよ。
 ……わーーーーーーっっっっ!!
 向田さんは、やさしい。
 それはもう、じゅうぶん過ぎるほど、知ってるんですが。
 今日も今日とて向田さんが、とても……とてもとても、すきだなあ!
 そう実感してしまうと、叫び出したくなると申しますか。
 さ、叫びませんけどね。びっくりさせてしまいますし。
 この気持ちを伝える予定はありません。
「ハナちゃん、思ったんだけどさ」
『なんでしょう?』
「この花、アロマテラピーサシェの材料が欲しいって念じて咲いたんだよね?」
 詰め終わった袋からドライフラワーを摘まんで、向田さんが確かめるように聞いてくる。
『はい、そうです。こんな花が欲しいなあって思いながら、こう、力を込めて……』
「ああ、ハナちゃんがむんってやってるやつ。フフ」
 むん……。その通りなんですが、改めて指摘されると恥ずかしい……。
 いやあれ、謎の掛け声ですよ? 何故か自然と出るんですよ……。
 で、でも向田さんが可笑しそうに笑ってくれたのでよしとします。
 向田さんの笑顔は可愛いですからね!
「だからさ、もしかしたらハナちゃんの念じ方次第で、色んな花を咲かせられるんじゃない?」
『えー!? 便利すぎませんか!?』
「いやいや、既に便利なスキルだし」
 た、確かに……?
 それこそお花屋さんが開けそうなスキルでは……?
 この前もしテナントに花屋が来たら、って話の流れで向田さんに「ハナちゃんにはぴったり」って言ってもらえてうれしかったし、本気でお花屋さんを目指してみるのもいいかも。ふふふ。 
 それにしても私があまりにも考えなしに、次々スキルを覚えてるってのも多大にあるんですが。
 向田さんがくださる意見はほんとうに有り難いですし、うれしいですし、やさしい。
 やっぱり、すきだなぁ。
 ――それからちょっと試してみたらなんとか咲かせることが出来て、何故か食用可だったのでスイちゃんに咲かせたお花を食べられて。
 今日の討伐のご褒美に、って何故か美味しそうだなって昨日思ってたのがバレてた塩ロールケーキを頂いて。
 せっかくなので切り分けてみんなで食べて、何故かフェル様とドラくんにも咲かせたお花を食べられて。
 手元に残った一輪の薔薇を手に、私は、悩みに悩んだけれど――向田さんに、渡すことにしました。
「あ、ありがとう」
『は、はい』
 わ、渡せた……! 渡しちゃった……!
 こういうの渡し慣れてないし向田さんも貰い慣れてないのか無性に気恥ずかしい空気になっちゃったけど、渡せた……!
 ……ほんとうはほんのちょっとだけ、食べて欲しいなって思っちゃったことは流石に黙っておきます……。
 そ、それこそドン引きされそう。
 なんと言いますか、その、あまり言葉にするのは憚られますが、私とて一応アルラウネですし、ダッチワイフなので、そ、そういう意味も含まれてると言いますか……。
 はい。いいえ。はい。はい?
 な、何はともあれ、こんな種族や職業だからって無理に迫るつもりはありませんし、気持ちを伝える予定もありません。
 けれど。
 気持ちを込めて、花を贈るくらいはいいですよね。
 向田さんが、すきです。
 向田さんがこの世界に呼ばれてすぐに決断して、あのへらっと笑った顔を見た時から、なんとなくすきで。
 思わず追いかけちゃったくらいには、最初からすきで。
 後ろから見ていた向田さんは、面白くて、可愛くて、時々かっこよくて。旅は楽しそうで、作った料理はおいしそうで。
 どんどん積み重なったすきのおかげで、私は今ここにいる。
 後ろじゃなくて、隣にいられること。
 ちゃんと触れられる体があること。
 毎日一緒にご飯を食べて、おはようとおやすみが伝えられること。
 それだけで、胸がいっぱいになってしまう。
 でも、きっとそのうち、欲張っちゃうかもしれません。
 だってそれも向田さんが教えてくれたから。
 食べてみたい、触ってみたい、一緒にいたい。
 いつか、〝もっと〟が溢れる日が来るかもしれない。
 ……その時、私はどうするんだろう?


 そう言えば、なんで向田さんに渡した瞬間に薔薇の色が変わったのかな。
 み、見間違いじゃなかったよね?
 すうって色付いて、赤くなっていった。
 たぶん私のせいなんだろうけど……花の色も自由に変えられるのはいいなあ。すきな色に出来るし。また今度時間がある時に試してみよう。
 確か薔薇って、花言葉がいっぱいあった気がする。色ごとにも本数ごとにもあったような……? ざ、残念ながら覚えてません……。
 で、でも赤い薔薇はスタンダードだし、きっと悪い花言葉じゃないはず。
 すきって気持ちは込めたから、それでいいよね。


【1本の薔薇の花言葉……一目惚れ・あなたしかいない】
【赤い薔薇の花言葉……あなたを愛しています・愛情・情熱・熱烈な恋】

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