第五十六話 なんでもなくないやつ

 3軒ほど回ると流石に皆から腹減ったコールがされたんで、どうせならと街案内のお礼に5人を飯に誘ったら快諾された。おかげでネイホフの焼き物を堪能出来たし、飯くらいご馳走しないとね。
 やっぱり地元民だけあって店も道もよく知ってて、今日行った店以外にも色々教えてもらった。かなり買い込んだ後だけど滞在中にあと一回くらい買い物してもいいかも。
 借家に向かって皆でぞろぞろ歩いてる間、5人は俺の飯を期待しているようで年相応にはしゃいでいる。責任重大だな。
 せっかくだし美味いもん食わせてやりたいよなぁ。
「米はやめといた方がいいかな?」
『どうでしょう、パンの方が無難でしょうか?』
「だよねぇ。今日は鳥肉手に入ったし、パンとそれで作ろうかな」
『やったー、お肉ー』
『うむ、肉ならば良い』
『肉だ肉だー!』
 行きはなんとなく男女で分かれてたが、帰りは俺たちが先導することになったのでハナちゃんと並んで歩く。
 街中でこれだけ長くステルスなしは初めてだからか、まだちょっと慣れない感じ。
 鞄の中で寝てたスイも腹が減って待ち切れないのか外に出てきたから抱っこした。ドラちゃんはまたハナちゃんの頭に乗ってる。で、フェルがのしのし着いてくる。
 ハナちゃんがスキルを使いこなせるようになって喋れるようになったら、この光景の方が当たり前になるんだろうね。
 そう言えば心配してた花も勝手に咲かなかったなと思いながら横目でハナちゃんを見る。
 すぐに目が合った。
『……?』
 首を傾げつつもハナちゃんはぱっと笑って『なんですか? 何かご用ですか向田さん?』って顔が言ってる。
 いやホンットわかりやっす。
『えっなんで笑うんですか!?』
「いやいや、な、なんでもないよフフッ」
 慌てふためくハナちゃんには悪いがちょっと面白くて無理。
 からかわれてると思ったのか(まあその通りなんだが)ハナちゃんは『……もー!!』という顔をしている。
 絶対ハナちゃんてポーカーフェイスとか出来ないよね。
 しみじみ和んでいるとフィリップが一歩近付いてきた。
「……あのー、気になってたんすけど、ムコーダさんとハナさんて「「なんでもない(わ)(です)!!」」
 へ?
 俺たちに向かって話し掛けてきたフィリップの発言をブリジッタとリヴィアの女の子二人が遮った。しかも両サイドから手で口を塞がれるっていう物理。
 フィリップ、若干苦しそうだが大丈夫なのかそれ。
「大丈夫ですっ、なんでもないので!」
「はい、気にしないで下さいっ!」
「ムグッ、な、なんだよ俺はただ」
「「いいから」」
 有無を言わさずブリジッタとリヴィアがフィリップを後ろの方に引っ張っていった。
「……す、すみません3人が騒がしくして」
「ごめんなさい、なんだろう急に……?」
「い、いいよいいよ、ちょっと気になるけどね」
「(こくこく)」
 取り残されたアントンとパウルが困惑気味に謝った。こちらこそ2人は関係ないのに謝らせてなんかごめん。
 気にするなって言われたら気になるんですが。
 なんなんだ一体。
「……ちょっと! 何言おうとしてるのよ!」(ヒソヒソ)
『……?(……あれ?)』
「だ、だから俺はただムコーダさんとハナさんて恋人同士なんですかって聞こうとしただけで……」(ヒソヒソ)
『……!?(……え!? ま、待って聞こえるどうしてえっ?! なんてこと聞こうとしてたんですかフィリップくん!!)』
「やっぱり……よかった~止めておいて……あの二人付き合ってないんだって」(ヒソヒソ)
『(ありがとうリヴィアちゃんとブリジッタちゃん……! ……あっ、そっかアルラウネの体って人の時より耳がいいのかも……?)』
「実は私達もハナさんにこっそり聞いてたのよ、歩いてる時に……でもそんなことないって顔真っ赤にされて否定されて……わかる? 片想いよ!?」(ヒソヒソ)
『!?(ば、バレてる!? えっ、な、なんで!?)』
「そんなの見てりゃわかるって! ハナさん絶対ムコーダさんのこと好きじゃん!」(ヒソヒソ)
『(え゛っ)』
「わかってて聞いたの~!? だ、ダメだよハナさん可哀想でしょ!! あんなにわかりやすいのに当のムコーダさんは気付いてないんだよ!?」(ヒソヒソ)
「そうなのよ、リヴィアの言う通りよ! 逆になんで気付かないのムコーダさんは!?」(ヒソヒソ)
『………………』
「だ、だからだって! あのままだとハナさん可哀想じゃん、ちょっと外野が突っ込んで意識させたらイケるってアレ!!」(ヒソヒソ)
「……そうかもしれなくても、でも、ダメだったらもっと可哀想になるよねぇ?」(ヒソヒソ)
「パーティー内恋愛って外野が思ってるより複雑なんだから、そっとしておくのも優しさよ……?」(ヒソヒソ)
『………………』
「……わかったよ、余計なお節介で悪かった……しかしAランクの冒険者でも色恋には鈍いんだな」(ヒソヒソ)
「それはそうね」「言えてる~」(ヒソヒソ)
『……………………………………』
 後ろの方でヒソヒソ喋ってるけど何言ってるかわからん。
 はぐれないよう振り向いて声をかけようと思ったが内緒話っぽいしやめておいた。少し離れてもフェルっていうデカい目印があるから大丈夫だろ。
 しかし気になる。女の子の「なんでもない」は「なんでもなくない」って相場が決まってるからな。
 列の先頭で借家への道案内をしつつ考える。
 フィリップが言いかけた「ムコーダさんとハナさんて」……?
 ……付き合ってるんですか? とか?
 そ、それはちょっと困る。仲睦まじい男女に見えたってことになる。
 そ、そりゃ確かに俺とハナちゃんは仲が悪いわけじゃないというかむしろその逆というか、はい。
 仲は良い、と思う。良好です。ハナちゃん、いい子だしね。
 で、でも主人と従魔だし。
 つい数時間前ハナちゃんに恋人が出来たら笑って見送ってあげたいって決意したばっかりだし。
 だからもしかしたらハナちゃんと恋人同士に間違えられた可能性にうっかり喜んでなんかないぞ、決して。ま、まあ正直悪い気はしない……っていやいやダメダメ。
 ハナちゃんは身内、大事な仲間です。
 しっかり自分に言い聞かせたところで借家に到着した。
 後ろから豪邸を前に「えっここ!?」とか「スゲェ……」とか言い合ってるのが聞こえる。
 振り向いてここだよって言おうとしたら俺のすぐ隣にいたハナちゃんの顔色が大変なことになっていた。
 あ、赤くて青いってどうなってるのっ? 顔中冷や汗かいてるしっ。
「は、ハナちゃん大丈夫? 具合悪い?」
『な…………なんでも…………ないです………………』
 なんでもなくないやつだからそれ!!

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