第五十七話 まさかの告白?
俺はまだ顔色が悪いハナちゃんにこっそり話しかけた。
「ハナちゃん、本当に大丈夫?」
『はい……! 具合が悪いわけじゃないので……えっと……後でお話します! その時に、きちんと説明します……! それでもいいですか……?』
「そ、それはもちろんだよ!」
心配は心配だがハナちゃんがそう言うなら待つしかないね。
本当に具合が悪いわけじゃないみたいだからひとまず安心したよ。
しかし顔に出やすいとは言っても赤くて青いとか逆に出すぎて全くわからん。こういうパターンもあるんだな……。
『あるじー』
『腹減ったー』
『飯はまだか』
いかん、何はともあれまずは飯だ。
今日はコカトリスの肉が手に入ったから、それで簡単にハニーマスタードサンドにするぞ。
全員リビングに集めてそれぞれ飲み物を出して、俺はキッチンに向かう。
手伝いたそうにしてたハナちゃんにもアイスティーを押し付けて座らせてきたった。休んでて下さい。具合が悪くなくても顔色が酷かったのは事実なんだしね。
俺が材料調達して鳥肉の皮目にフォークでプスプス穴開けたりタレを作ったり鳥肉を焼いたりレタスをちぎったりパンを焼いたりしてる間、リビングでは女の子達を中心にサシェ作りが始まってた。
料理しながらの聞き流しだったからちゃんと聞いてなかったけど、ハナちゃんも今日のお礼がしたくてプレゼントするつもりが、何でか一緒に作ることになったみたいだ。
この前ポプリを作って貰った時にサシェの材料も追加で購入してたっけ。時間がある時にちょっとずつ作ってるらしいから既に5人分はあるはず。でもこう言うのって一緒に作った方が楽しいんだろうな。良い思い出にもなるしね。
キャッキャウフフとした楽しげな声を微笑ましく聞きながら俺はコカトリスのハニーマスタードサンドを作り上げた。
ワゴンで出来た物をリビングに運んだら「待ってました!」と歓声があがった。ちょっと照れる。お待たせしました。
それぞれにハニーマスタードサンドを配ってくと、皆いそいそとテーブルの上にあった封筒を鞄やポケットにしまい始めた。
なんで封筒? って思ったらあれか、ハナちゃんがアロマテラピーサシェの入れ物に使ったのか。レターセットこの前買ってたしね。ウゴールさんに渡した時は木箱だったけど封筒も簡易的でいいかも。
剥き出しのままだとうっかり周りの人までリラックスさせちゃうからな。悪い効果じゃないんだが時と場合を選ぶっていうか。
「上手に出来た?」
「はい! ハナさんが用意してくれたお花、すっごくいい匂いで……」
わかるわかる。疲れが取れるしよく眠れるよってオススメしたら「へ~!」「ムコーダさんのお墨付きか!」と感心した声があちこちから聞こえた。ハナちゃんは照れてました。うむ、可愛い。
コカトリスのハニーマスタードサンドは大好評で何度もおかわりを作ったぜ。
その後はダンジョンの話で盛り上がって質問攻めになったのもあって、気が付いたら夕方になってた。
皆に泊まるか聞いてみたけど朝早くからランク上げのために依頼を受けに行くって断られたわ。うんうん、頑張れ若者。
玄関までだけど嵐の使者をハナちゃんと一緒に見送った。フェルスイドラちゃんは当然のようにリビングで寝てます。
同性同士なのも手伝ってか随分仲良くなったみたいで、別れ際「ハナさん、(ムコーダさんが鈍感で大変だと思いますが)頑張って下さいね!」「(ムコーダさんとの恋を)応援してます!!」ってブリジッタとリヴィアがハナちゃんを激励してた。す、すごい応援されてる。
『ブリジッタちゃん、リヴィアちゃん、ありがとう……!』
ぶんぶん振り回す勢いで握手してたけど、それじゃ足りないとばかりにハグに移行してたよ。女子のスキンシップ、激しい。
素直なフィリップがぼそっと「いいなー」と呟いてた。気持ちはわかるがダメです。
「皆も頑張ってな。縁があれば、いつかまた」
「はい。次会う時にはランクを上げて、ムコーダさんを驚かせてみせますよ」
「貴重なダンジョンのお話、ありがとうございました」
「あとすげぇ美味い飯も!」
リーダーらしく頼もしいアントンに続いてパウロとフィリップとも握手をした。
「あ、そうだムコーダさん」
キャッキャしてる女の子達を横目にフィリップがこっそり手招きした。お、さっき言いかけたこと教えてくれるのか?
フィリップを遮った2人はハナちゃんとハグしてるし今のうちなら気付かなそうだな。
俺が少しだけ屈むとフィリップが耳打ちしてくる。
「ハナさんてムコーダさんの恋人ですよね? 悪い虫が付かないようにちゃんと公言しといた方がいいっすよ」(ヒソヒソ)
「はっ!? い、いや俺とハナちゃんは違っ」
「じゃあムコーダさん、今日はお世話になりましたー!!」
妙に爽やかな笑顔を浮かべてフィリップはさっと俺から身を離した。
ちょうどハナちゃん達のお別れも終わったので俺はそれ以上何も言えず、遠ざかっていく5人に向かってぎこちなく手を振ることしか出来ませんでした。
違うんだって、お、俺とハナちゃんはそんなんじゃないしっ。
ちゃんと否定させてくれーーーーーっっ。
「――……ちょっとフィリップ、余計なこと言ってないでしょうね?」
「全然! 言ってないって! ……余計じゃないし(ボソッ)」
リビングに戻った俺達はひとまずソファーに座った。
顔色が急変した件について説明したいってハナちゃんが言ってたからね。
隣に座るなんて今更なのに変にソワソワしてしまう。
完全にフィリップにとんでもない捨て台詞を吐かれたせいなんですが。
は、ハナちゃんと俺が恋人とか、あるわけないだろっ。
ま、まあ? 傍から見たらもしかしてもしかしたら? 仲睦まじい男女とかお似合いの2人に見えるのかもしれないが??
……煩悩退散っ。
俺とハナちゃんは主人と従魔で、身内で、仲間ですっ。
はぁ、豪邸の立派で大きいソファーで良かったわ……必要以上に密着しないんで……。
「そ、それでどうしたの?」
俺は気を取り直すために本題に入った。
『実は……聞くつもりはなかったのに、ブリジッタちゃんとリヴィアちゃんとフィリップくんの内緒話を聞いてしまったんです……!』
マジか。
ハナちゃんが言うにはアルラウネの体はどうも聴覚に優れているらしい。
あの時の3人は結構離れたところでコソコソ話してたのに、アルラウネの体には驚かされてばっかりだわ。
ハナちゃんが喋れないのはアルラウネの体をきちんと理解していないからってフェルも言ってたけど、転生してまだ1ヶ月も経ってないんだし、理解が追いつかないのはしょうがないよなぁ。
『わ、私、無意識に聞き耳を立ててしまったのかもしれません……!』
「ふ、不可抗力だって。ハナちゃんもそこで初めて耳が良くなってることに気付いたんでしょ?」
『はい……』
申し訳なさそうにしゅんと肩を落としているハナちゃんを慌てて励ました。
ハナちゃん、盗み聞きとか出来なそうだもんね。罪悪感でダメそう。てか今ダメになってるし。
「じゃあつまり、さっきはうっかり内緒話が聞こえてきてびっくりしちゃったんだね」
『そ、そうなんです! ご心配をおかけしました……』
「いやいや、何ともなくてよかったよ」
『…………』
正直どんな内容ならハナちゃんが赤くて青くなって冷や汗をかくのか気になるっちゃ気になる。でもあんまり言いたくなさそうだし(盗み聞きだしね)、俺もとくに聞いたりはしなかった。
……たったさっきのフィリップの耳打ちは聞かれてない、よな? だ、大丈夫だよな?
聞こえてたらハナちゃんも動揺してるだろうし、うん、大丈夫大丈夫。
『……あの。向田さん』
ハナちゃんがおずおずと言葉を続ける。
『お、お伝えしたいことが、あゅっ、あ、あるんです、が……っ』
「…………へ?」
噛み噛みのハナちゃんを見たらかつてないほど真剣な顔をしていて、思わず息を飲んだ。
ゴクリ。
緊張しきってガチガチのハナちゃんが体ごと俺の方に向いてる。
釣られて背筋をピンと伸ばす。お、俺まで緊張してきた。
『私……っ、わ、私……』
…………も、もしかして、もしかする?? ひょっとして??
マズい、フィリップに変なことを言われたせいで意識が完全に
そりゃ正直ちょっと期待しちまうっていうかこの子俺のこと好き過ぎない? って思う瞬間は何回もあったけどっ、俺とハナちゃんは主人と従魔で……と、とにかく心の準備が出来てないっっ。
ハナちゃんは大きく深呼吸して、言った。
『私……パーティーから、抜けようかと思います』