第六十話 明日は生姜焼きにしよっか

 紅茶を飲んで一息ついた流れで、いつもなら手伝ってくれるスイは寝ちゃってるしってことでハナちゃんと一緒に食器を洗うことになった。
 今日は“嵐の使者ストームブリンガー”が使った分もあるから普段よりそこそこ量もある。
『お詫びにもなりませんが、私が洗いますよ』
「いやいや、二人でやった方が早いから」
 すいません、ちょっと格好つけました。
 い、いいだろ少しくらいっ、種類はどうあれ好意を抱かれてるんだからっ。
 キッチンの流しの前にハナちゃんと一緒に並んで、ハナちゃんが洗う担当で俺が流す担当。どっちがどっちをするかはじゃんけんで決めたよ。
 一息ついたとは言えさっきまでのこともあって、しばらくは食器を洗う音だけがキッチンに響く。別に気まずいわけじゃないんだけど。
 俺は少し考えてから言った。
「ハナちゃんはさ、もっと我が儘言ってもいいと思うんだよね」
『えっ? わ、わがままですか?』
 ハナちゃんの他人を優先しすぎ問題はこれを機に触れておきたい。
 本人の性分もあるにしたって、もっとハナちゃん自身にも重きを置いて欲しいっていうか。
 未遂で終わってホントによかったが、ハナちゃんの中でパーティーを抜けようまで考えがいっちゃったからな。
 自分を犠牲にするような考え方はダメ絶対。
『わがまま……? わが……、わ……???』
「えーと……ほ、ほら、ハナちゃんが一番最初に生姜焼きが食べたいって思ってくれたみたいに、アレが食べたいとかアレしてみたいとかでもいいから!」
 首をひねって唸り始めてしまったハナちゃんを見かねて言ってみると『あぁ、なるほど!』って明るい声を出してくれた。
『……ということは私のこっちに来てから初めてのわがままは……生姜焼き……?』
「ゲフッ、そ、そうかも……?」
 あんまり大真面目に言うもんで思わず吹き出すところだった。
 そもそもそれ我が儘か? って感じですけど、あくまで大事なのは「ハナちゃん主体」であることだからな。
「と、とにかくそういう感じならさ、他にも色々あるんじゃない?」
『はい、それなら!』
 さっきと打って変わって楽しげにハナちゃんが喋り出す。
『ええと、生姜焼きで思い出したんですが、いつか“鉄の意志アイアン・ウィル ”の方々にもお会いしてみたいです』
 マジか。ついこの間ドランのダンジョンで再会出来たばっかりだよ。
『えー!? そうなんですか!? お、惜しかったんですね……』
 ハナちゃんはその頃俺のマジックボックスの中で植木鉢だったからな……。
「で、でも冒険者同士ならまた出会うかもしれないし!」
『そ、そうですよね……!』
 どうして会ってみたいか聞いたら『向田さんが初めて出会った冒険者があの方々でよかったなぁと思いまして……』だって。確かになぁ。
『同じ冒険者でもぼったくる人たちがいましたし!』
 確かにな!!
 あったなあそんなこと。騙される方が悪いとは言われたけどさ、ハナちゃんが時間差で憤慨してくれて嬉しいぜ……。
『してみたいことと言えば、最初にいいなぁ私も! ってなったのは魔法かもしれません。向田さんが魔法の練習してたのを見て……』
 うんうん、やっぱり魔法は使いたいよな。
 最初の魔法の練習って言うとアレか、フェルに無理矢理ゴブリンの集落に連れて行かれたやつか。
『はい! 向田さんのファイヤーボール、格好良かったですよ!!』
 ショボいファイヤーボールも見てるはずなのにハナちゃんは断言してくれた。て、照れるぜ。
 いつの間にか俺が召喚されてから、つまりハナちゃんが俺の背後霊になってからの旅を振り返る形で話が進んでいく。
 ハナちゃんはその後も食器を洗いながら、『湖畔で食べていたホイル焼きとムニエルも美味しそうだったので、次の海の街がほんとうに楽しみです!』とか、『そして湖と言えばスイちゃん! スイちゃんがもう、もう……可愛くて可愛くて……! ずっと触ってみたかったし声も聴きたかったので幸せです……』とか、『あ、そう言えば温泉が湧いてたところもありましたね。温泉もちょっと行ってみたいです。いえ、あそこじゃなくていいです、オルトロ? ス? なんかあの、頭が二つあるわんちゃんの縄張りなので……』とか、『喋るグリフォン、可愛かったので機会があればお話してみたいですね。あの時のフェル様、とっても強くてかっこよかったですし、ぼろぼろになったグリフォンにすぐさま駆け寄った向田さんもかっこよかったです!』とか、『カレーリナの街もランベルトさんのお店も、背後霊として後ろでは見ていましたが……この体で、実際に行って、見てみたいなぁ』とか。他にも色々。
 今までの思い出と一緒に、食べたい物や行きたい所、やってみたいことをたくさん、たくさん教えてくれた。
 俺はうんうんと相槌を打ちつつ、一緒に思い出話をしながらほっと安心していた。
 これだけ言えれば大丈夫だよな。
 こんなのは全然我が儘でもなんでもないけどね。
 ハナちゃんがこの先も食べたい物を食べて、行きたい所に行って、やってみたいことが出来るように、俺も全力で手伝いますとも。
 とっくに洗い終わった食器を一緒に布巾で拭いて俺達は笑い合った。
「明日は生姜焼きにしよっか」
『……! はいっ!』

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