閑話 一世一代のわがまま
『それじゃあ向田さん、おやすみなさい』「おやすみハナちゃん。……ま、また明日」
『! はいっ! また明日!』
部屋の扉をしめてから、うれしさをしばらく噛みしめました。
少し照れながら「また明日」って言ってくれた向田さん、可愛いしやさしい。
すきだなぁ。
もう何回目かわからない実感がまた胸にわいてきて、たまらなくなって、ベッドの上の置いといたクッションを抱きしめた。
転生直後に向田さんから頂いたクッションです。初めて向田さんに頂いた、とても大切なもの。もちろん、向田さんから頂いたものは全部大切なんですが。
この体、この二回目の人生。
向田さんから頂いたもの。
『ああああぁ~~~…………』
声にならない声を上げながら私は大きすぎるベッドをごろんごろん寝転がった。
また、向田さんの前でみっともなく取り乱してしまいました。
反省点が……多すぎる……!
まず、ブリジッタちゃんとリヴィアちゃんとフィリップくんに何故か向田さんのことがすきってバレていたこと。
なんで……?
【※顔に全部出ているからです】
フィリップくんに至っては「そんなの見てりゃわかるって!」って断言されていたし……。ど、どうして……。
……三人にバレてるってことはもしかしたらアントンくんとパウロくんにもバレてる可能性もある? うう。は、恥ずかしすぎる。
それから、向田さんと、こ、恋人同士に見られてしまったこと。
ほんとうは向田さん以外は全員従魔のパーティーだけど、端から見たらその、男一人と女一人と従魔三匹のパーティー、ですよね。
そこだけでもきっとこ、恋人同士って勘違いされやすいだろうに、あろうことか「ハナさん絶対ムコーダさんのこと好きじゃん!」「あんなにわかりやすいのに当のムコーダさんは気付いてないんだよ!?」「逆になんで気付かないのムコーダさんは!?」
……………。
……………………。
羞恥でダメージが入ってるなら私、瀕死です。
顔が熱くなるのと同時に血の気が引いた感覚は、しばらく忘れられそうにありません。(……そもそも私の体は血って通ってるのかな?)
見ていたらすぐ知れるほどわかりやすい自分が恥ずかしくて、“そういう風”に見られたことがうれしくて、それからすぐに申し訳なくなって。
私は向田さんの従魔で、アルラウネで、だ、ダッチワイフ、なので。
だけど、そんな種族と職業の従魔がパーティーにいると知れたら。
向田さんが、白い目で見られてしまう。変に勘ぐられてしまう。迷惑を、かけてしまう。
こんなことにも気付かないで、『私も一緒に連れてってください』なんて言えた自分が恥ずかしくて仕方なかった。
向田さんをすきになる人、向田さんがすきになる人にとって、私は、私の存在は――
〝存在自体がダメだとか、そんな寂しいこと言わないでよ〟
……どうして、あんなにやさしいんでしょうか。比べて私は、あんまりにもずるい。
だってステルスを使えばよかった。黙って消えれば、向田さんの元から離れてしまえば、全部終わる。
今までお世話になってきて、無言で立ち去るなんて、そんな不義理なことは出来ません。これはもちろん、嘘ではないんです。
でも、ほんとうに向田さんから離れたければ、出来たはず。
見上げていた高い天井がじわっと滲んでいく。きっと、本物のアルラウネは泣かない。創造神様が涙が出てくる体にしてくれたに違いなかった。
情けなくて、恥ずかしくて、それでもどうしたって向田さんがすきで。
そばにいたい。
それが、私の一世一代の。
『わがまま、ですよ……』
向田さんの隣にいられるだけで幸せです。でも、隣にいることは、ただの私のわがままなんです。
……なのに、「ハナちゃんはさ、もっと我が儘言ってもいいと思うんだよね」だなんて。
向田さん、人が良いにも程があります。
思い出したら笑ってしまって、泣きながら笑う自分も可笑しかった。
向田さんのことを考えると、いつだって心があたたかくなる。
すきだなぁ。
……やさしい向田さんに報いたいな。頑張って強くなって、もっとお役に立てるようになりたい。
『……うん、頑張ろう』
向田さんが「また明日」って言ってくれたんだから。
いつまでもメソメソしてたら、申し訳が立たないものね。
涙を手で拭おうとしたら、手より少し早く私の蔓たちが動いてくれた。……この子たち、やっぱりちょっと自我がある気がする。お礼を言いながら軽く撫でると、うれしげにくねくね動いた。ううん、自我。
自分の体の一部ながら、もちもちして気持ちのいい蔓を弄びつつ考える。
従魔として頑張るのはいいとして。
……今後の振る舞い方は、どうすれば……?
向田さんが気を利かせてくれて、遠縁の親戚(という設定)になったのはいいんですが! というか向田さん天才!? 相変わらず機転が効くんですから! もう! すき! じゃなくて。
だ、だって、フィリップくんたちとは一日しか一緒にいなかったのに、私の片想い、バレバレだったんですよ。
確かに向田さんの隣にいるだけでしあわせですが……もしかしてそれがなんかこう、ぶわっと出てしまっている可能性は……若干……ありますが……。
そうだったとしても、抑えるのって難しすぎませんか!?
向田さんにつれない態度をとるのは違いますし……というか、む、無理です。
……憧れの親戚のお兄ちゃん、みたいな感じで受け取ってもらえるでしょうか? 無理かな。どうかな。どうでしょうか。どうかひとつ……その方向でよろしくお願い致します……。
これから出会う不特定多数の方々に向かって懇願しながら両手を組むと、私を真似した蔓が先端と先端を合わせていた。南無……。
いつの間にか祈るポーズになっていたので、そのまま神様方へ感謝を捧げてから寝ることにしました。加護も頂いているので、定期的に拝んでおかないと。信仰大事。たぶん。
創造神様、転生させてくださってありがとうございます。色々醜態をさらしていますが、頑張って生きていきたいです。
加護をくださった神々の皆様、いまだにどうして加護をくださったか不明ですが、ありがとうございます。頑張ります。
【注・ハナちゃんはムコーダさんの恋愛運が低すぎるので神々に同情されています】
それから向田さん……は神様じゃないけれど。ごめんなさい、ありがとう、だいすきです向田さん。
これでよし、っと。
おやすみなさい。明日は生姜焼き、です!
ところで。
向田さんにだけは、私の片想いはバレてない……らしいです。
フィリップくんもリヴィアちゃんもブリジッタちゃんも、全員が全員、向田さんは気付いてないって言ってましたし……。
皆にはたった一日で知られてしまったのに、今まで気付かれなかったってことは。
つまり向田さんにだけは、この先もバレないってことですよね……!?
よ、よかった。ほんとうに、それだけは、ほんと~~によかった……!
パーティーメンバーかつ従魔かつ一応アルラウネかつダッチワイフの私から片想いをされてるなんて知ったら、向田さんはきっと困ってしまう。
あんなにやさしくて良い人なんだもの。
絶対すきになる人いっぱいいるし、恋人もすぐ出来ちゃうんだろうなぁ……。
……。
わがままを言っていいなら、そうなっても、ずっとそばにいたい。
わがままを言っていいって、言ってくれたから。
も、もちろん向田さんと向田さんの恋人に嫌って言われたら、潔くパーティーを抜けます!