第六十一話 あちこちそちどち
昨日宣言した通り生姜焼きを作っていくぞ。朝からな!
ホントは昼か夜かの予定だったんだけど、元気良く『おはようございます!』って挨拶してくれたハナちゃんの顔に(生姜焼き楽しみだな~!!)って書いてあったので思わずまあ朝から生姜焼きでもいっか~ってなったわ。
そんなに楽しみにされたら期待に応えたくなっちゃうでしょ。
ハナちゃんは心なしかスッキリした表情で、いつも通りだった。うんうん、よかった。昨日の時点でもう大丈夫って思ってたけどね。
そうだ、せっかくだしいつもと違う生姜焼きも作ってみるか。
材料はオークの肉と玉ねぎ、生姜焼きのタレ、薄力粉、生姜、醤油、みりん、酒。
玉ねぎは火が通りやすいように気持ち薄めに切る。玉ねぎをシャキシャキよりトロトロにしたい場合は最初に数分レンチンすればいいんだが、この世界にレンジはありません。なのでシャキシャキ一択。
オークの肉も薄切り。生姜は好きなだけすりおろしておく。
薄切り肉を半分に分けておき、半分を生姜焼きのタレに漬け込む。
こっちがいつもの生姜焼き。
で、漬け込んでる間にあと半分の肉で、もう1種類の生姜焼きを作る。
某有名司会者がラジオとか番組で紹介していたレシピで、これが簡単なのに美味いってネットで度々評判になってたやつ。
気になって試しに作ってみたらホントに簡単だし美味かったんだよね。
……そういや平日昼に毎日生放送してた冠番組、数年前に終わっちまったんだよなぁ。俺より年上の長寿番組だったから終わった時はちょっと寂しかったぜ。
【注・ムコーダさんは2016年に異世界召喚されています】
まずはタレを作る。醤油、みりん、酒の比率は1:1:1。わかりやすいし覚えやすいよな。
二人分だったら大さじ2ずつくらいでちょうどいいけど、うちの従魔達には全く足りないのでこの黄金比率でボウルいっぱいに用意。
そこにすりおろした生姜を好きなだけ入れたらタレの完成だ。
肉の全体には薄力粉を満遍なくまぶしておく。ぱふぱふっとな。軽くで大丈夫。こうしておけばタレがしっかり肉に絡むし、肉の旨味も逃げていかないんだとか。
下準備はこれだけ。
漬け込んだ肉の方もいい感じなので早速焼いていく。
焼く時のポイントなんだが、某有名司会者レシピの生姜焼きはフライパンに油は引かない。肉から油が出てくるからって言う理論らしい。
油を引かずに熱したフライパンに肉を入れたら、じっくり焼き目をつけるように火を通す。あんまりかき混ぜないのもポイントだ。
肉の両面に焼き目がついたら玉ねぎを入れて炒め、玉ねぎが透き通ってきたらタレを投入。
まぶしておいた薄力粉とタレが絡まって、とろみが出てきたら火を止める。あんまり焼きすぎても肉が硬くなっちまうからな。
いつもの生姜焼きの方も焼いて千切りキャベツと一緒に盛り付けて、味変用のマヨネーズを皿の隅っこに出して、っと。
ちなみに千切りキャベツはサラダ担当ハナちゃんが用意してくれたものを使わせてもらったぞ。
俺とハナちゃんの分にはここ数日恒例になりつつあるご飯と味噌汁とハナちゃん作浅漬け(この前の残り)のセットを添えたら、 W生姜焼き定食の出来上がりだ。
「今日の生姜焼きは右と左で違うタレを使ってあって、右がいつもの。白いのはマヨネーズって言って肉につけてもキャベツにつけても美味いぞ」
説明してからそれぞれに出してやると早速皆食べ始める。
『うむうむ、いつもの味も美味いがこちらも美味い。肉だけなら更にいいのだが』
フェルさんや、一緒に炒めた玉ねぎぐらい食べて下さい。案の定おかわり分はキャベツいらないとか言うし。
『いつものよりピリッとするけどこれくらいなら平気ー。白いのと一緒に食べるとおいしーね』
スイは辛いのとか刺激が強いの苦手だもんね。生姜たっぷり入れちまったからちょっと心配だったが大丈夫で良かった。スイの皿には追加でマヨネーズを出してあげた。
『こっちはなんつーか香りが良いな。一緒になってるやつもシャキシャキしてるし肉も柔らかくてうめえ!』
おっ、わかるかドラちゃん。市販のタレは安定して美味いけど、やっぱりすりおろしたばっかりの生姜を使った方が香りは段違いだからねぇ。
『!? ~~~っっ!! ……!! !!!!』
これは恐らく口の中に食べ物が入ってるから喋れないしゆっくり味わって食べたいけど早く美味しいって言いたいっていう顔のハナちゃん。おめめキラッキラだよ。
何も言わなくてももうわかったからゆっくり食べておくれ。
『…………っすごくおいしいです向田さん!!!』
しっかり味わって咀嚼したハナちゃんが開口一番伝えてくれた。フフフ、もう伝わってますけどね。
もちろん喜んでくれたらいいなと思いながら作ったが、そんなに喜んでくれて嬉しいぜ。
ハナちゃん的に市販のタレの方は思い入れがあるのと転生して初めて食べた物だから何回食べても飽きないし馴染み深い感じがして美味しい、自作タレの方は生姜が効いてて香り高くてタレがよく絡んでて肉が柔らかくて美味しいって褒めてくれた。
ありがたや。市販のタレと某有名司会者のレシピ様様だわ。
実はこれ某有名司会者のレシピなんだよって言おうとして、ふとハナちゃんに伝わるか気になった。
いや、生前の記憶があやふやなのは知ってるんだけどさ、変なところで覚えてたりするし。ディアンドルとかボディスとかね。
そもそもハナちゃんがいつどの時代から召喚されたか不明だけど、話してる感じだとそこまで年代は離れてなさそうな気はするんだよな。
思えば前にも焼肉のタレを見て『私も中辛派です』って言ってたっけ。
もしかしたら見る物によって自然と思い起こされてるのかも?
ブラック企業のトラウマしかはっきり覚えてないってのも寂しすぎるし、そういう些細な事柄でも記憶が戻ることは悪いことじゃないよな。
でも話を振って覚えてなかったら逆にハナちゃんが気にしちまうか?
ええい、出たとこ勝負だ。
「ハナちゃんハナちゃん」
『どうしました向田さん』
「……
『……? ……?? ……う、うきうきうぉっちん……???』
つ、伝わった。きょとんとし続けるハナちゃんに実はこの生姜焼きのレシピは……と慌てて説明しすると『えっそうなんですか!? 料理をされる方だったんですね、すごい!!』だって。
うん、俺もそう思う。ハナちゃんのおぼろげな記憶から即座に引っ張り出されるなんて、やっぱりタ●リさんはすごいぜ。
食後に皆と話し合ったら明後日旅に出ることが決定したんで、今日は丸一日旅の準備をする日になった。
というのもフェルが『ダンジョンに行くぞ』って言い出してさ。
嫌な予感はしてたんだが的中しちまった。
昨日
しかも今から行くとか言うし。急すぎだし海目指してる途中だし。
だから俺はキッパリ言ってやったぜ。
「ダンジョンに行くのはいいけど海の街に行ってからな。あと、まだこの家借りてる期間中だから早くて出発は明後日だよ」
ってな。
そう、俺は昨日の時点でダンジョンに行く心づもりでいたんです。
フェルの話を信じるなら、ガンガン戦えば戦うほどハナちゃんがアルラウネの体を理解してゆくゆくは喋れるようになるらしいからな。
それにレベルが上がればハナちゃんには進化の可能性もある。何に進化するかは未知数だが、少なくともアルラウネではなくなる……はず。
つまりダンジョン行きはハナちゃんにとってメリットしかないってわけだ。
ドランのダンジョンも行きたくなかったのに踏破までしちゃったし、俺の気持ちとして行きたいかって言われたら正直そんなことはないんですが。
ハナちゃんの懸念材料が減るかもしれないんだぞ。
ここで「行かない」なんて判断は俺には出来ないぜ。
まあ当初の予定通り海の街には行ってからだけどな。
ちなみにダンジョン行きを決めた時の皆の反応はこちら。
『ダンジョン、ダンジョン~。スイねー、いーっぱいビュッビュッてしていーっぱい倒すんだー!』
『ひゃっほー! 今度のダンジョンはどんな魔物がいるか楽しみだな!!』
『私にとっては初ダンジョンなのですごく楽しみです……!! 頑張りますねっ!!』
『フフン、実に楽しみだぞ。お主のことだからまたダンジョンは行きたくないなどと渋るかと思ったが、ついに心を決めたか』
フェルさんや、一言多い。