第六十二話 影の戦士

 昨日丸一日かけて旅の間の飯をばっちり準備して、今日が滞在最終日。
 ゆっくりしたかったんだがまあいつものアレですよ、『つまらん』とか『外出たーい』とか『確かになー』とかね。
 ということで俺たちはオーク集落の殲滅依頼を受けてネイホフの街から少し離れた森に来ていた。
 このCランク冒険者パーティー“影の戦士シャドウウォーリア”と一緒にな。
 やっぱり厨二病ネームにしか思えん。
 集落の規模から言って本来は5から6パーティーは必要らしいんだけど今ほとんどの冒険者が出払っていて、冒険者ギルドがなんとか確保していたのが影の戦士シャドウウォーリアのみなさんだ。
 その冒険者が出払ってる理由ってのも無関係じゃなくてさ、俺たちがイビルプラントやキュクロープスを討伐したから色々滞ってたのがちゃんと回り始めて、結果として……っていう。
 ギルドマスターのヨーランさんとしてもオークの集落を放置するわけにもいかず、いっそ俺たちに依頼しようかと考えていた矢先だったらしい。タイミングよかった。
「いくらなんでも強すぎるだろ……」
「なんだあの強さは……」
 で、早速始まったみんなの戦いっぷりと次々と倒れていくオークの群れに筋肉ムッキムキの強面たちが呆然としていらっしゃる。
 気持ちはわかる、みんな強いからねぇ。
 ……。
 ……ば、バレないよな??
 フェルの土魔法、ドラちゃんの氷魔法、スイの酸弾―――に混ざって実はこっそりハナちゃんの風魔法や蔓もオークを倒してるんです。
 いや俺もよく見ないとわからんから大丈夫だと思うけど。
 よー--く見てたら……あっほら! 今! 何もないとこで勝手にオークが細切れに! えっ? つ、強……。
 そう、ハナちゃんはステルス発動中、かつフェルの背中に乗ってあの戦場と化した集落の真っ只中にいます。
 どんな依頼になるかわからないから今日はステルス有りで行動してたんだよ。
 それでオーク集落の殲滅になったじゃん。
 俺とハナちゃんはフェルの背中に乗って影の戦士シャドウウォーリアはスイに大きくなってもらって移動。
 森に到着してフェルが『お主らは逃げたオークを始末しろ』って宣言してからの続きがさ……
『ハナはこのまま我らと共に行くぞ、いいな』
『はい! ……えっ?! は、はい!!』
『わーい! ハナちゃん、一緒にいーっぱい倒そうねー!!』
『背中に乗ってんだよな? 俺らからは見えないから気をつけろよー』
 ハナちゃん、反射で返事してたけどびっくりしてたな……。
 戦うことでアルラウネへの理解が深まってハナちゃんのためになるって知ってるから異論はないし、そもそも最初からステルス使ってるから影の戦士シャドウウォーリアがいる手前そのままフェル達と一緒に戦う方がいいってのもわかる。
 わかるんだけどさ。
 何気に俺とハナちゃんって一緒に戦ったことないんだよな。
 べ、別にハナちゃんに良いとこ見せようなんてちょっとくらいしか思ってないし!
 だ、だってハナちゃんが俺のことを後ろから見てた背後霊時代って、俺が召喚されてからカレーリナの街を出る辺りまでで……ゴブリンやワイバーンにギャーギャー言ってる姿ばっか見せてるんだぞっ。
 それなのに好意を持ってくれてるってどういう……それだけ俺のこと……いやいやいや自意識過剰っ。いや……でも……。
 俺は行き場のない気持ちをぶつけるように逃げてくるオークへとミスリルソードを振りかざし続けるのでした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 オーク集落、殲滅完了。
『ムコーダさん、ただいま戻りました』
『おかえりハナちゃん。お疲れ様』
 念話とほぼ同時に蔓が手に巻き付いてくる感触にもすっかり慣れたな。握り返したらちょっとだけ嬉しそうに揺れた気がした。く、くそう可愛い、じゃなくて今はオークの回収作業をしないと。
 集落の規模は大きくてオークはざっと200匹くらいいたと思う。
 もちろんものの見事に全部屍と化してる。死屍累々。
 影の戦士シャドウウォーリアと距離も遠いのでハナちゃんも回収作業をせっせと手伝ってくれた。肉のためだからか風魔法で運んでくれたりとフェルとドラちゃんも手伝ってくれたぜ。『スイもースイもやるー!』って真似っこして手伝ってくれるスイたんは偉いねぇ。結局全員で回収作業をしたよ。
 終わって影の戦士シャドウウォーリアと合流すると彼らはオークが作ったらしい掘っ立て小屋を燃やしていた。
 パチパチと爆ぜる炎の音を聞きながら、俺たちはまた一つ異世界の現実を知ることになった。
 まず新たに住み着くオークやゴブリンを出さないためにも、一掃した後は住処も必ず壊す。
 もし被害者の遺体があればその場で焼くのが鉄則。滅多にはないがアンデッドになる可能性もあるらしい。
 家族に引き渡すことはしない。
 オークやゴブリンに攫われ、あまつさえ……そんな姿を本人も見せたくないし家族も見たくはないだろう、と暗黙の了解になっているそうだ。
 被害者が生きていた場合はもっと悲愴だと、苦し気な苦い顔で教えてくれた。
 オークやゴブリンに弄られて……ほとんどの人が正気を失っている。自害を選ぶ人もいる。
 それでも生きていれば連れて帰り、一人では生きていけない人を保護してくれる神殿の保護院という施設に送る、とのことだった。
 実際に正気を失ってしまった少女を見つけて保護したことがあるという彼らの表情は険しかった。
「俺たちは、見かけたら必ず狩るようにしてるぜ」
 被害者を増やさないためにも、冒険者が体を張るべきだと。
 厨二病って言ってすまん。影の戦士シャドウウォーリアって名前も違って聞こえてくるよ。人の生活を影から支える、立派な戦士たちだな。
 ……女性としてより恐ろしく聞こえただろうに、『知れてよかったです』とハナちゃんの念話こえは静かだった。うん、俺も知れてよかった。
 俺たちも見かけたら狩るようにしよう、と決意を改めた。

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