第六十三話 ハナちゃんは身内です
少ししんみりした空気になったものの、フェルとスイとドラちゃんが普段通り『腹減った』って言い出したんで結局食ってから帰ることになった。気が抜けるってか、こういう変わらなさに助けられることもなくはないかな。
同じ依頼を受けた好で
あちらさんが食べようとしてた飯がショボくてマズそうって思ったのは内緒な。
でも干し肉やただの黒パンよりはハンバーガーの方がいいだろ。
ドランで買い溜めした黒パンと、昨日作っておいたハンバーグと、ハナちゃんのおかげでストックのある千切りキャベツを合わせただけのお手軽美味しいハンバーガー、大好評でした。
『お外でハンバーガー、格別です……!』
もちろんステルス継続中のハナちゃんにもこっそり渡したよ。飲み物と一緒にな。
食後は海の街ベルレアンについて盛り上がった。
タイラントフィッシュにビッグハードクラム、覚えたぜ。待ってろよ海の幸。
『おっきい貝ですか……バター醤油とかも絶対美味しいですよね……』
ハナちゃん、それ絶対美味いやつ。
聞けば
ひょっとしたらダンジョン内での再会もあるかもね。『その時はちゃんとご挨拶出来るといいなあ』なんてハナちゃんが零してた。
挨拶、出来るといいねえ。依頼を受ける段階の最初っからステルスを使ってるとどうしてもね。途中で急に姿を現わすわけにもいかないし、姿を消したままじゃ不便な時も結構ある。
だからイビルプラント討伐も今回のオーク集落殲滅もハナちゃんは表向き不参加ってことになっちゃってるんだよな。
本当はバリバリ狩ってるんだけど。
……来たるダンジョンに備えて、ハナちゃんもある程度戦えますよ~アピールをした方がいいのかも。
だって傍から見た俺たちのパーティーってさ。
でっかい狼みたいな魔獣(フェル)とちっちゃいけどドラゴン(ドラちゃん)と謎のスライム(スイ)。
それらをテイムしてる冒険者(俺)と商人? らしき女の子(ハナちゃん)。
例えば悪漢が狙うとしたらハナちゃん一択じゃない??
いやそんなことさせませんけど。
フェルたちがいるのに手を出してくる奴なんていんのか? ってのはひとまず置いといて。命知らずがいないとは限らんし。
正直さっき
魔物はもちろんだが人間だって怖いわけで。女性ってだけで危害を加えようとする奴らは悲しいかなどこにだっている。
ハナちゃんが非戦闘員だと思われてる可能性は高いよね。何にも知らない野郎に突然……ってことも有り得る話で。
考えたくはないがちゃんと考えとかないと。
実際はそんじょそこらの輩に負けないくらい強いにしたってさ、そうなった時怖い思いをするのはハナちゃんだ。怖い思いなんてさせたくない。
まだハナちゃんが転生してアルラウネになってから一ヵ月も経ってないが、スキルや体について少しずつでもわかることが増えてきた。
ステルスの使用頻度も考えつつ、ドラン、ネイホフと滞在して来たんだし、ベルレアンでの過ごし方を相談してみるか。
『……ってわけで、自衛というか防犯のためにもなると思うんだよね』
『なるほど……!』
帰り道に早速ハナちゃんに話してみる。
俺も念話なのは巨大化スイに乗って並走してる
提案として特別なことは何もなくて、ただ依頼を受けに行く時にはなるべくステルス無し・一緒に受けようってだけ。
ハナちゃんもちゃんと参加しますよ、戦えるんですよ~っていうささやかな主張をしてくってわけだ。
ていうかフェルたちと一緒にいるところを定期的に見せてくだけでも効果あるだろ、多分。
『……色々考えてくださってたんですね。ありがとうございます』
お礼を言われると同時に、俺の腰辺りに控え目に回されていたハナちゃんの蔓と腕にぎゅっとされた。
ぐわあ。
た、体勢的にはいつものことなのに、ちょっと破壊力が強くないですかっ。思わずって感じで気付いてないかもしれませんがハナちゃんや、それは割と……割とちゃんとしたハグですっっ。
『要はハナが強いと周囲にわかればよいのであろう? フスンッ、それなら我に考えがある』
俺が一人であたふたしていると会話を聞いていたフェルが口を挟んできた。
『フフン、時が来れば教えてやる。楽しみにしておくがよい』
嫌な予感しかしないんだが??
聞いても教えてくれないフェルは放っといて、ネイホフに着くまでハナちゃんとあれこれ話し合ったのでした。
冒険者ギルドに到着するとすぐヨーランさんが出迎えてくれて、早速買取のために全員で倉庫に向かった。
「しかしオークキングは生まれてなかったにしろ、リーダーもジェネラルもそんなにおったのか……被害が出る前で良かったわい」
歩きながら集落の規模を伝えるとヨーランさんが深くため息をついた。
集落が出来てた場所は北側の村や街道から近くって話だったもんな。
村の人たちも気が気でなかっただろうなぁ。
魔物が当たり前にいる世界でも怖いもんは怖いよ。
「
「フォッフォッ、それは有り難いのう。奴らは増えるのが早い、その分被害も多い……」
ヨーランさんがしみじみと呟く。
「まあフェンリルたちもおるんで万が一もないとは思うが、ほれ、ハナさんがおるじゃろ。……くれぐれも気を付けるんじゃぞ」
思うことがあったのか、ハナちゃんの身を案じてくれた。
うん、万が一も億が一にもありませんとも。
ギルドマスターとしてそういう事情や被害状況には人一倍詳しいんだろうね。そしてやっぱり、女性の方が多いんだろうよ。
「はい、もちろんです。……そう言えば」
話の流れとしてもそこまで違和感ないだろうし、これを機会にヨーランさんに伝えておこう。
「言いそびれていましたが、うちのハナは私と同郷と言うだけではなく、実は遠縁の……まあその、身内でして」
「ほう?」
「オークだろうが何だろうが、誰にも手出しはさせませんよ」
『ムコーダさん……!!(わーっ、えっ、か、かっこいい……!!)』
き、決まったぜ。ハナちゃん自身が超強いし物理的にハナちゃんを守るのはフェルの結界だったりするんだが、俺の気持ちはこうなので。
ハナちゃんに怖い思いは絶対させたくないもんな。
「フォッ、フォッ、フォッ、ハナさんは
「ええ、そうです」
「そういうことじゃったか、通りで……」
……ん? 通りでって何がだ?
俺が疑問に思ったところでちょうど倉庫に着いてしまった。
まあいっか。こうやってちょっとずつ親戚アピールしてけばそのうち誰からも付き合ってるとは思われなくなるよな。
これからも定期的にハナちゃんは身内ですって紹介するのを忘れないようにしよっと。
――二組の冒険者たちが倉庫を去った後のこと。
「いやしかしなるほどのう、ハナさんはムコーダさんの
通りで、とヨーランは笑った。
あれだけ熱い視線を送られて平気な顔が出来るなんて、大したものだと思っていたのだ。
よっぽど鈍感なのか、すっかり”ねんごろ”なのか。
同郷とだけ聞き及んでいたが、
「ハナって子はあれですか、ギルドマスターが絶賛してた香り袋の」
解体職員のホレスは作業を続けたまま、上司の独り言を拾う。
「うむ、とんでもない効果のな。正直すごい効き目じゃからのう……争いの種にもなりかねんが、まあムコーダさんの
冒険者同士のいざこざは山ほどある。獲物の取り合い、金銭の分け前。
そして――痴情のもつれもこれまた多い。
惚れた腫れたで喧嘩ならまだ可愛い。果てや刃傷沙汰にもなりかねない。
だが、恋人である、許嫁である、はたまた既に結婚していて夫婦である……などと、深い仲だということをあえて周りに言いふらすことは得策ではない。信頼出来る相手や、逆にまるっきり行きずりの相手ではその限りではないが。
大切な人間の存在は、時として弱みになりかねないからだ。
ならば、起こり得る無用な争いを上手に避けるには?
周囲に対して暗に「誰も手を出すな」と牽制するには?
一例として――そう、
ホレスは解体の手を思わずぴたりと止めた。
目の前には急ぎ頼まれた15体……以外にも、大量の上位種を含んだオークの山。
「というか伝説の魔獣を従魔にする冒険者の
「フォッ、フォッ、フォッ! そりゃそうじゃ!」