第六十八話 それは反則です

 俺たちは元貴族の別荘だという9LDKを一週間借りることにした。
 内装も調度品も納得のゴージャスさだぜ。ソファの一つにしたってかなり立派なもんで『フンス、なかなか気に入ったぞ』ってフェルがどっかり乗っかっても大丈夫。
『ほ、本当にオーシャンビューだ……!!』
『何度見てもすげーよなー!』
『どこから見てもお水いっぱい〜』
 窓辺でハナちゃんとドラちゃんとスイちゃんがキャッキャウフフしてる。平和。
 借家、本当にオーシャンビューでした。流石お貴族様、ロケーションにもこだわってるわ。海の魔物は初めてなんだしクラーケン討伐はちょっと怖いが、それ以外は文句なしだよ。
 青い海、白い雲、豊富な海の幸、そしてビール……!
「庭も広かったし、海鮮BBQには打って付けってね」
『ふふっ、今から楽しみですね!』
 ちょうど庭を眺めていたハナちゃんに声をかけると、満面の笑顔で振り向かれてドキッとした。ぐわあ。
『ハナちゃーん、こっちこっちー』
『はーぁーいー』
 呼ばれて嬉しげに小走りするハナちゃんを見送ってこっそりため息をついた。
 白状するとハナちゃんからの好意を理解してしまってからハナちゃんのことがより一層可愛く見える……き、気がする。
 俺の馬鹿、阿呆っ、単細胞っっ。
 そ、そういうの関係なく最初からいい子だし最初から可愛かったのになんか色眼鏡で見てるみたいでハナちゃんに申し訳なくなるっていうか。
 はー、全くこれだから女っ気のない独身男性はいかん。
 ……いい加減、ちゃんと考えなくちゃな。
 ハナちゃんの気持ちが恋愛感情かどうかはそれこそハナちゃんにしかわからないにしても。しょ、正直そうかも……? と思わなくもないけど 、本人から直接言われたわけではないし。
 そう、多分。
 そもそも俺に言うつもりがないんだと思う。(そして俺にバレてるとも思ってないという……)
 ハナちゃんのことだからきっと、言ったら俺に迷惑がかかるとでも思ってるんじゃ……? うん、思ってそう。
 自分の存在が俺の恋路の邪魔になるかもって気付いた途端、ハナちゃんはパーティー離脱を決意した。
 パーティー離脱ってつまりは俺たちと――俺ともう会わないって決めても、ハナちゃんは自分の気持ちを言わなかったんだよ。
 種族とか職業とか、主人と従魔の立場とか、色々あるにしたって……最初から身を引く前提なんだよなあ、ハナちゃん。
 俺の旅を初めから後ろで見守ってて、俺を切っ掛けに転生出来たって言ってくれた女の子。
 ハナちゃんからはいつも好意と敬意と恩義を感じてる。いやあのホント全部顔に書いてあるんだってマジで。ホントにマジ。
 それは嬉しいし有難いことだけど……ハナちゃんの二度目の人生は始まったばっかりなんだよね。
 やっと生後一ヶ月だよ。まだまだ全然これから。
 未来がどうなるかなんて、誰にもわからなくない?
 将来ハナちゃんにぴったりなイイ人が現れるかもしれないし。
 それに、ハナちゃんは本気で俺の恋路を心配してくれたんだよな。
 だったら俺に相手さえ見つかれば、ハナちゃんだって次に進めるんじゃないか?
 こんな考えは好いてくれてるハナちゃんに失礼だけどさ。
 でも言うつもりもない、報われるつもりもない気持ちをこの先もハナちゃんが抱え続けると思うと……やっぱり辛いよ。
 ハナちゃんに想われてるのが辛いってわけじゃないぞ。なんなら光栄ですよはい。
 ただ、ハナちゃんが喋れるようになってスキルも使いこなせて普通の人間として過ごせるようになったら。
 つまり、何の不安もなく他人と交流出来るようになったら。
 ハナちゃんの選択肢は、可能性は、今よりずっと増えるはず。
 それらが潰されるのは、もったいないと思うんだ。
 ハナちゃんには、第二の人生を思いっきり楽しんで欲しいからね。
 ……問題は俺の相手がいつどこで見つかるかは全くの未定ってところなんですが……。
 結論。と言っても、答えはこの前と変わらない。
 ひとまず俺は、親戚(表向き)として、主人(内実)として、見守っていきたいと思う。
 ハナちゃんの選択肢・可能性を広げるためにも助力は惜しまないぞ。だ、ダンジョンだって行くって決めたしな。
 もちろん見るからにダメそうな輩はハナちゃんから遠ざけさせてもらうぜ。
 親戚としても主人としてもそれくらいは当たり前だからな。
 ……ふう、やっと考えがまとまった。
 この間はうっかり保留にしちまったし(俺にだってキャパがある)、旅の間もちゃんと考えようとはしてたんだけどさ……。
 移動中も休憩中も食事中も就寝中もずっと近いしずっと良い匂いだしでそれどころじゃなかったんですーーーっっ。
 結局これだよ。
 見守りたいとか言っていちいちドギマギするな俺っっ。
『おい、いつまで百面相をしておるのだ。そろそろ飯の時間ではないか?』
「……はいはい、ちょっと待ってて」
 いつもと変わらないフェルの態度、悔しいが落ち着くわ。
 昼飯は旅のために作り置きしてたものを全部出しましょうかね。
『腹減ったぜー、飯だ飯!』
『スイもー。スイもお腹減ったー』
 ちょうど家の中や庭を見て回ってきたドラちゃんとスイ、ちょっと遅れてハナちゃんも帰ってきた。
『お庭もすっごく素敵でした……!』
「そっか、よかったね。せっかくだから昼飯も外で食べよっか?」
 俺は向田剛志、志が剛い男。
 改めましてしっかりハナちゃんと向き合っていくぜ。
『わあ、いいですね! ……あの、向田さん』
「うん?」
 蔓で庭の方を指し示すと、ハナちゃんは少し背伸びをして俺の耳元でコソコソ囁いた。
『あとでまた、い、一緒に晩酌しませんか? その、波の音を聴きながらとか、いいなあと思いまして……』
 ……俺は向田剛志、志が剛い男。
 そうは言ってももじもじお誘い内緒話は反則じゃないですか??
 

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