第六十九話 黙々作業、時々雑念
飯を食った後、俺とハナちゃんはそれぞれ作業することにした。フェルとスイとドラちゃんが昼寝してるのを時々眺めつつ、二人して黙々と手を動かす。
リビングも広けりゃ机もデカいんで並んで作業しても余裕です。流石豪邸。
作業内容は俺が残っているダンジョン産の品を確認、ハナちゃんがアロマテラピーサシェ作りだ。
ハナちゃんが『手伝いましょうか?』って言ってくれたけど元からリストはあるしドランで売ったものを引いてくだけだから大丈夫って伝えてあるよ。
サシェは本格的に売り出すためにもこつこつ在庫を増やしてる最中で、ラッピング用のリボン付き巾着袋や他の道具をまとめてネットスーパーで注文・お買い上げ済です。
前に買ったやつは5色5袋で銅貨5枚だったが今度のは1色10袋で銀貨1枚。
それを金貨1枚分、つまり100袋分お買い上げ。改めて数にするとすごいな。
カラーバリエーションはありすぎても悩んじゃうかもしれないってことで、最初はシンプルに1色で販売してみるんだってさ。
袋もリボンもベージュで少し地味な物を選んでたよ。あんまり派手だとこの世界に馴染まなそうだしね。でもリボンの方には光沢があってなかなか上品で良いぞ。
作り方は以前と同じでお茶パックの中にドライフラワーを入れて口を縛って……ってやり方だが、蛸紐から少し細めの巻糸に変更。
こっちの方が扱いやすそう、って一緒にネットスーパーの画面を見ながら色々話し合ったぜ。
あとハナちゃんが追加で買ってたのは計量スプーンと蓋付きのタッパーだ。
これは今日みたいな作業用だね。
今机の上に置かれているタッパーの中には、サシェ用に粗めに砕かれたドライフラワー(アロマテラピー効果付与済)がたっぷり入ってる。
タッパーから計量スプーンで大さじ1杯分のドライフラワーをお茶パックに詰めて、二重になってる部分をひっくり返し蓋がされた状態にする。更に中身が出てこないよう巻き糸できつく縛り、巾着袋に入れ、リボンを結んだら出来上がりだ。
工程が多くて大変そうだし俺の方が逆に手伝いたいくらいだったんだが、ハナちゃんには両手の他にも蔓がついてるからな。
器用にもお茶パックの口を広げたり追加の袋を取ったりと見事にアシストしてたわ。
というか、なんか前よりハナちゃんの言うこと聞いてるっぽい?
お互い作業が半分くらい進んだところで休憩することにして、気になったから聞いてみた。
『はい、前よりずっと動かしやすくなった気がします。レベルが上がったからでしょうか?』
ハナちゃんは『ちょっと待ってて下さいね』と言って2本の蔓をすぅーーっと伸ばしていく。
『むむむ……むん……』
フフ、またむんて言ってる。ってどこまで伸びんの?
蔓の先端はすぐリビングから見えなくなった。よく伸びるとは聞いてたけど上限どれくらいなんだろコレ。
操るのが難しいのかハナちゃんは両手を組んで集中してたが、急にパッと笑顔になった。
『あ! 向田さん、出来ました!!』
「な、何が??」
『ふふふ、ちょっとだけ内緒ですっ』
「えぇー」
珍しく得意げなハナちゃんに和みつつ、暫く待ってたら……蔓がキッチンに置いてあったワゴンをガラゴロ引いて戻ってきた。
『キッチンにあったやかんでお湯を沸かして、食器棚からティーポットを探して入れてきました!』
ハナちゃんの言う通りワゴンの上にはティーポットが乗っていて、蓋を開けると中にはお湯が。
え? す、すごくない??
「ハナちゃん、それって蔓さえ先に伸ばしておけば、ハナちゃんにはどこに何があるかわかるってこと?」
『……えっ!?』
気付いてなかったんかい。
『そ、そういうことになりますねっ?! もちろん蔓に目はないんですが……見えたというか、わかったというか……?』
「な、なるほど……」
ハナちゃんの蔓、もとい触手はハナちゃんと触覚を共有しているみたいだし、まさしく体の延長線って感じなのかもしれん。
また一つ知識が深まったな。
「でも、蔓だけで魔道コンロに火を付けられたんだね。大丈夫だった?」
『はい、蔓も頑張ってくれました! ご心配ありがとうございます、向田さん』
はにかんだハナちゃんが『ありがとね』と蔓を撫でると、2本とも嬉しげに身をよじった。
『……や、やっぱり自我、ちょっとあるみたいです』
「み、みたいだね……でも勝手に動かないだけいいっていうか……」
『そう……です……ね……』
いかん。蔓が勝手に動いてハナちゃんと同じ布団に引きずり込まれたのを思い出してしまった。
ただあの頃はまだ蔓に自我っぽいのは目覚めてなかったし『蔓が勝手に動いたのは全面的に私のせいです』ってハナちゃん認めてたしこの前から『私、ずっと向田さんに触りたかったんです』って台詞が頭から離れてくれないんですがっっ。
【※詳しくは第十九話参照】
「…………」
『…………』
どうやら蔓による強制添い寝の記憶が思い出されたのはハナちゃんも同じだったのか、妙な沈黙が……
「さ、冷めちゃう前にお茶にしよっか!?」
『そそそそうですねっ?! あ、えっと、お湯だけなのは何にするか選べるかなと思いましてっ!!』
「そ、そっかありがとう、俺はコーヒーにしようかな!?」
俺たちは雑念を払うかのように一旦机の上を綺麗にしつつお茶の準備に取り掛かったのだった。
ティーカップはこの前ネイホフで買った物を出して、俺がコーヒー、ハナちゃんは紅茶。
「……そ、そう言えば、明日のクラーケン討伐なんだけど」
『は、はい?』
話題を変えるため俺は思い付きを口にした。
「ハナちゃんの体って、海水大丈夫なのかなと思ってさ」
『た、確かに……! 検証してみないとですね!』
つい忘れがちだがハナちゃん、植物性だからね。
そこら辺も気を付けつつ、明日はクラーケン討伐です。
ちなみにハナちゃんとの晩酌はクラーケンももちろんだが、色々海鮮を仕入れてからにしようって約束したぞ。
……楽しみだけどちょっとソワソワするというか……落ち着け俺。俺とハナちゃんは身内。主人と従魔。
気のせいか? この呪文、あんま効果なくない?