第七十二話 フェルにチョロい…

 無事港に戻った俺たちは冒険者ギルドに向かい、早速狩ってきた諸々を解体してもらうことにした。
 まあ「討伐してきた? 昨日の今日だぞ?」「ギルド所有の船を借りに来てなかったろ?」「や、やはり規格外の冒険者だな……」なんてギルドマスターのマルクスさんに言われちゃったが。
 屈強なおっさんにドン引きされちまったよ。
 規格外なのは俺じゃなくてフェルとスイとドラちゃん……と、ここにハナちゃんを入れていいのか悩むところ。
 だってさ。
 初期ステが一般人より多少高いだけだった俺(加護持ち)と、
 戦闘狂でガンガンレベルが上がっていくみんな(加護持ち)と、
 生後一ヶ月でまだ伸び代がある転生者のハナちゃん(加護持ち)と。
 イマイチ比較が難しくない?
 既に俺よりハナちゃんが強いってことはわかってます、わかってますよそりゃ。
 ハナちゃんも戦えますよ〜アピールをするっていう計画はあるけどさ、上手いことやらないと変に目立っちゃうというか。
 目立ち過ぎも良くないよな。
 万が一にでもハナちゃんが一応アルラウネってことはバレないとは思うが、念には念をって言うし。
 そんなことを考えつつ、俺はクラーケンとシーサーペントとアスケドピロンの解体が終わるのを見守った。
 あ、マルクスさんにお願いして解体担当の職員に手伝ってもらってイカ、もといクラーケンの皮むきは俺もやったぞ。
 流石にこれだけデカいと一人じゃ無理だから助かったわ〜。
『(向田さんて……イカの皮むきも……普通にしちゃうの……? いえ、魚も普通に捌いてましたけど……普通に……普通って……? レシピを見ずに美味しいご飯が作れて土鍋で綺麗にお米が炊けて、魚も捌けて……イカも……扱える……)……向田さんて、ほんとうに、すごいですよね……(そのご自覚はなさそうですが……)』
 何故かハナちゃんから真剣にお褒めの言葉を頂きました。て、照れるぜ。
「マルクスさん。討伐とは関係ないんですが、まだ解体をお願いしたい物がありまして」
 もちろんハナちゃんが狩ってきたジャイアントタッコのことだ。
 デカい獲物を三連続出した後だから多少気が引けるが「海の魔物は鮮度が命」って信条らしく、ベルレアンの冒険者ギルドでは解体担当の職員を多く確保してるって話だったし。
 それに自分で取ったタコ、ハナちゃんも食べるの楽しみだろうからね。
「こっちのハナが取ってきた物なのですが……」
「(こくこく)」
「ガッハッハッ! そうかそうか、嬢ちゃんもか! 一体何が取れたんだ?」
 豪快に笑いながら、マルクスさんは子供にするみたいに若干屈んでハナちゃんと目線を合わせようとしてくれた。身長差、エグいほどあるからな。
 ハナちゃんはそんなマルクスさんににこっと笑顔で返して、肩にかけてる鞄をがさごそ漁るフリをする。はい、フリです。
 マルクスさんには「一見普通の鞄ですが、マジックバッグを仕込んであるんですよ」と説明しておいた。真っ赤な嘘だけどね。
 一見も何も普通の鞄です。何なら俺のお古です。この街に向かう合間にハナちゃんが洗ったり染めたり切ったり張ったりして修繕した力作です。
 そう、切ったり縫ったり、じゃなくて切ったり張ったり。
 ……意気込んで縫おうとしてたハナちゃんの気持ちを汲み過ぎた蔓が、謎の粘着液を吐いて布を綺麗〜〜に張り付けた時はびっくりしたよな……。
 蜜以外にも色々出せるんだねーーそうみたいですーーそっかーーーアハハウフフと二人で微妙な雰囲気になったのも記憶に新しい、っていうか今まさに思い出して遠目。
 だってさ……ハナちゃんのスキル的にさ……。

 ①『ステルス』で死角から近付き、
 ②『触手』で捕獲。
 ③『粘着液』で更に身動きを奪って、
 ④『アルラウネの蜜』で興奮状態にし、
 ⑤『魅了』で征服完了。
 
 だからそれはファンタジー系エロに出てくる触手なんだってっっ。

「(よいしょっ)」
 ハッ。俺が一瞬ぼんやりしている間にハナちゃんはジャイアントタッコを出していた。
 ジャイアントタッコのランクは海上で鑑定した時に確認済でDランク。
 フェルたちがいつも狩って来る魔物に比べたらそこまで高ランクじゃないし、ハナちゃんも戦えますよ〜アピールには最適じゃない?
 で、今日のところは1匹だけ出そうって話もしてある。大漁でしたが。
 Dランクの魔物だろうがホイホイ何匹も仕留めてたら流石に目立つだろうからな……。
 残りのタコはベルレアン滞在中にハナちゃんが取ったとは言わず、別日にしれっと解体してもらう予定だ。
「じょ、嬢ちゃん、これを一人で仕留めたのか?」
「(こくり)」
 フフ、どんな小魚を釣ってきたのか微笑ましく見守ってたら巨大なタコが出てきてびっくりしたってところか?
「実はハナは魔法が得『フスンッ、我が直々に魔法を指南してやったのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・。これくらい当然であろう』
 フェルさん???????
「……フェンリルが……直接……?」「伝説の魔獣直々に……!?」
 突如ズンッと割り込んできたフェルに俺の言葉は遮られた、っていうか何言い出してんだよっ?
『む? なんだ、たったの1匹しか出しておらぬではないか。10匹全て出すがよい』
「じゅ、10匹っ!?」「あの子が一人で!?」
『それからお主らは気付いていないようだったが、ハナが狩った中にはキングジャイアントタッコもいたのでな、それも全部だ。次の飯は豪勢にすると約束させたのだからな』
「キングジャイアントタッコ!?」「嘘だろ、Bランクの魔物じゃねえか!!」
 ザワザワ。ガヤガヤ。
 どよめく解体作業の職員たちの声を聞きながら、俺は思い出していた……。
 ――要はハナが強いと周囲にわかればよいのであろう?
 ――フスンッ、それなら我に考えがある。
 ――時が来れば教えてやる。楽しみにしておくがよい。

 これのことかぁぁぁーーーっっ!!!

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

『どうだ、上手くいったであろう? これでまさかハナを弱者だと侮る者はおるまい、何せ我が! この我が指南しておるのでな』
 ドヤ顔のフェルが恨めしい。
 なーーにが上手くいったであろう、だよ全く。
『あのなぁ、ハナちゃんが目立ち過ぎてもよくないってわかるだろ? 正体がバレる危険だってあるんだぞ』
 帰り道、内容が内容なので俺も念話で話す。
 折角の計画が全部台無しだよっ。
 それどころか「それだけの実力があるなら」って冒険者ギルドへの加入をオススメされちまった。
 とりあえずその話はまた改めて……と一旦濁して、解体したタコだけ受け取ってそそくさとギルドから出てきたわ。
 ちなみに「海の魔物は鮮度が命」ってまた言われて結局10匹全部解体してもらったし、一番デカかったキングジャイアントタッコも解体してもらった。確かにやたらデカいのがいるなとは思ったけど、色も姿も同じなのにまさか上位種だったとは……。
『ぬうっ。……で、では正体を伏せたままハナの力をどう説明するのだ?』
『? どういうことですか、フェル様?』
『“我に教わった”からこそ魔法に長けているのだと言えば、脆弱な人間ならばそちらを信じるだろうな。まさかアルラウネだとは思うまいよ。フスンッ』
『ハッ……!? 流石ですフェル様、まさかそこまで考えてくださってたなんて……!?』
 いや一理あるっちゃあるけどさ。
 騙されないでハナちゃん。
 絶対今考えついてるって。ハナちゃんにかこつけて我TUEE言ってるだけなんだって。
『そ、それにだな、この我が教えてやったのだぞ。隠す必要がどこにある。むしろ誇るべきではないか?』
『……!! おっしゃる通りです………!!!』
 おっしゃる通りなの???
『わかりました。フェル様の名に恥じないよう、冒険者としても精進して参ります!!!』
『うむ、わかればよい』
『もういいから早いとこ戻って飯にしようぜー』
『ごはーん』
 ハナちゃんがいいならいいけどさ……、フェルにチョロい所、あるよな……。
「じゃあ今度、ギルド登録しに行こっか」
『はいっ!!』


~side解体作業の職員たち~
「キングジャイアントタッコ、噂には聞いてたが……本当に存在したんだな……」
「……つうか結構ここ最近だよな? この街でタッコ食うようになったのって」
「ああ、だからあんだけデカいのを拝むのは全員初めてだろうよ」
「Bランクを含めてあんなデカい魔物を一人で狩るとか信じらんねえ……」
「でもわざわざ伝説の魔獣が嘘つくか……? つかねえよな……」
「というかフェンリルが直々に魔法を指南って……」
「「「「「「…………」」」」」」
「すげぇ……」
「おっかねぇ……」
「ちょっと好みだったのに……」
「いや誰も手ぇ出せねえだろあんなの」「無理無理無理」「“あの”冒険者のツレだぞ!?」「手出し無用って王都からお触れも出てる“あの”!」「まずフェンリル連れてるパーティーの時点で無理だろ」
「そりゃ違いねえ!!」

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