第七十三話 ライクかラブかって話でして
夕飯はもちろん海の幸をたらふく堪能した。焼きちなみにタッコはまんまタコの味で美味かったぜ。
食休みをして豪邸のデカい風呂にゆっくり入った後、俺は庭に出た。
ハナちゃんと晩酌するって約束してたからな。
ま、まあ夕飯の時に俺もハナちゃんもビール飲んじまったがこれはまた別ってことで。焼きイカと唐揚げにはビール不可避でした。
さて、ハナちゃんが風呂に入ってる間に軽くつまめるものでも用意しとくか。
酒はミスリルのお猪口をハナちゃんがスイに作ってもらった時に買った5本入りの純米吟醸酒飲み比べセット……の最後の1本を飲む予定だ。実はまだ飲み切ってなかったんだよね。350ml1本なんて二人だとすぐ飲み終わるだろうが、ビール飲んだ後だし逆にちょうどいいかも。追加で買ったっていいし。
二人だけで晩酌するのっていつ以来だ? 確かネイホフの街到着前夜に飲んだんだっけ。無事到着するって名目で……い、いやホントの理由はハナちゃんの初めての旅の記念になんだけど。それは我ながらクサイと思ったので言いませんでした。はい。
じゃあ半月ぶりくらいか。もうそんな経つんだなぁ。
ちょっとしみじみしつつ、つまみを作る。と言っても夕飯の時に大体用意してあるからホントに簡単にだけど。
タコは茹でたものを薄く切ってある。それを皿に並べて、チューブにんにくと醤油を混ぜたやつを全体にかけて、オリーブオイルも回しかける。仕上げに黒胡椒を振りかければ、簡単和風カルパッチョの出来上がりだ。
タコとにんにく醤油、まず間違いなく美味いやつ。
……ちょっと彩り足すか? ええと、上に細かくした大葉を散らして、レモンのくし切りを添えて……うん、これでよしっと。和風感増したしレモンも合うし。庭に置いてあったガーデンテーブルも相まって見た目もお洒落になった気がする。
あとはハナちゃんが来るまで味を馴染ませておけばいいな。
急がないでゆっくり入っておいでーって言ったけど多分ハナちゃん急いじゃうんだろうな。待たせたくない&楽しみでさ。フフ。
「………………はあ~~~~~」
ハッとして口を押さえる。こんなデカいため息ハナちゃんに聞かれでもしたら無駄に心配かけちまう。ま、まだ来てないよな? セーフ。
なんのため息かって言うと、ハナちゃんの言動を想像して自然と笑ってた俺自身に気付いて呆れたからでして。
今まで考えないようにしてたんだけど……。
俺ってハナちゃんのこと結構……いや大分……好きだよな?
最近やたらと可愛く見えるのも俺がハナちゃんのこと好きだからなんじゃね??
そりゃ好意と敬意で接してきてくれる可愛い女の子とか嫌いなわけないし皆好きです俺も好きです。じゃなくて。
その。ライクかラブかって話でして。
……はあ。見守っていきたいって結論を出したばっかりだってのに、それもこれも昼間の出来事のせいだ。
“ッ待ってろすぐ助けに―――”
ぐわああああああ。
恥ずかしすぎるっっ。思わず頭を抱え込むくらい恥ずかしい!!
ハナちゃんが海に引きずり込まれたって勘違いしたあの時の俺、完全に海に飛び込むつもりだった。
俺が飛び込んだところでどうしようもないのにさ。
皆に頼んだ方が確実なのに、というか普段ならそうしてるはずなのに、勝手に体が動こうとしてたんだよ。まあ未遂で終わったけどな!
俺、ハナちゃんのことが好きなんだなあ。
……。
…………。
………………。
……………………。
で? っていう。でっていう。
だ、だって告白なんて出来ないだろ……。
別にこれは俺がチキンでヘタレだからとかそういう訳では断じてない。
ハナちゃんの主人だし、遠縁の親戚としてやってくって決めたんだからな。
付き合いたいか付き合いたくないかって言われたら断然付き合いたいですけどねっっ!!
俺だって幸せになりたいしそういう欲求もあるし彼女だって欲しい。俺のことを慕ってくれていて尊敬してくれていて優しくて気立てがよくて俺の飯を美味そうに食べてくれる笑顔が可愛い女の子が一番近くにいるんですよ。
でも「このままじゃ俺に迷惑をかけてしまう」「俺の恋路の邪魔になってしまう」って思い至った時点でパーティー離脱を決意するような子だぞ。
告白したところでハナちゃんが自ら身を引いて断られる可能性も十二分に有り得る。(そもそもハナちゃんの好意が恋愛感情かどうかまではわからないし……)
そうなったら……き、気まずい。じゃなくて。いやそれもあるけど。
ハナちゃんが安心して異世界を謳歌出来なくなる。
何度も繰り返すが、俺はハナちゃんに安心して第二の人生を送ってほしいし、たくさん美味い飯食って色んなところを見て歩いて、いっぱい笑ってほしいんだよ。
告白したせいで変に緊張させたり気を遣わせたりしたくないし、そんなハナちゃんも見たくない。考えただけで心にクるぜ。
はあ。俺の馬鹿。な~にが「将来ハナちゃんにぴったりなイイ人が現れるかもしれないし」とか「俺に相手さえ見つかれば、ハナちゃんだって次に進めるんじゃないか?」だよ。【※六十八話参照】
後者の可能性は消えました、問題は前者。
……イイ人が現れる可能性の方が高いんだよなあ。トホホ。
い、いや俺だって指を咥えて見てるだけの男じゃないぞ、具体的にどうしていけばいいかは全然わからんが。
ただ、もし気持ちを伝えるにしたって、せめて主人と従魔の関係じゃなくなってからが筋だろ。
そこは付けなくちゃいけないケジメだと思う。
だって主人からの告白なんて付き合えって強制してるみたいじゃないか?
パワハラセクハラダメ絶対。
と、そこまで考えたところでハナちゃんの
『む、向田さん、お待たせしました!!』
「……あははっ」
思わず声に出して笑っちまった。念話なので多少距離があっても届くにしたって、ハナちゃんはまだ庭にさえ出てきてなくって、豪邸のリビングがだだっ広いせいかすごく小さく見える。
『いやいやいや、酒も肴も逃げないからゆっくりおいで』
『え!? おつまみ用意してくださったんですか!?』
つまりまだまだ遠いってのに、念話だけ先にお届けってどんだけ待たせたくない&楽しみなんだよ??
ぱたぱたと早足で笑顔が近づいてくるのが可笑しくって、同時に嬉しく思う俺もいて……。
……。
……。
『お、お待たせしました……わあ! おいしそう……というか絶対おいしいやつです!!』
やっと庭に到着したハナちゃんは目をきらきらさせている。
「夕飯後だけどこれくらいなら入るよね」
『大丈夫です! あ、食べ切れなかったら明日サラダの上に乗せてみませんか?』
「おっいいね、ちょっとドレッシング足したりして……“絶対おいしいやつ”?」
『あははっ、はい!!』
うむ、やはり守りたいこの笑顔。今日もハナちゃんが楽しそうで何よりです。
この後は何事もなく美味しく晩酌して普通に解散しました。
今後ハナちゃんにイイ人が現れる可能性は確かに高いかもしれない。
でもハナちゃんの主人だし、遠縁の親戚としてやってくって決めたんだからさ。
……悪い虫が付かないようにするのは別にいいよな?
むしろ主人としても親戚としても当然のことだろ。決して牽制をしようだなんて思ってませんとも。ええ。