第七十四話 そういうことにしといてください。
今日の予定は主に三つ。朝市で色々仕入れ、屋台めぐり、冒険者ギルドに行く、の順だ。
クラーケンとタッコとシーサーペントとアスピドケロンはたらふく食べたが、食べてない海産物はまだ沢山あるし、海鮮BBQに向けてどんどん仕入れていく予定だ。
屋台めぐりは朝飯兼昼飯で、皆には先に色々仕入れさせてくれって言ってある。体が小さなドラちゃんとうちで一番少食なハナちゃんはともかく、フェルとスイは食い始めたら満足するまで終わんないからな~。
冒険者ギルドには素材の買取代金を受け取るのとハナちゃんのギルド登録をしに行く……んだけど、どうなることやら。
『悩んでましたねぇ、マルクスさん……』
「悩んでたなあ……」
朝市を目指して歩きながらハナちゃんと話す。
というのも、ジャイアントタッコ9匹とBランクのキングジャイアントタッコ1匹の計10匹を単騎で討伐出来る実力の持ち主はどう考えてもGランクの範疇を超えているんだそう。
マルクスさん、「規格外の冒険者とは聞いていたが、まさか嬢ちゃんの方までとは思ってなかったぜ……」って頭抱えてたわ。すまんマルクスさん。ハナちゃんも強いんです。
でも少なくともGよりは上にしてくれそうだし、かえって良かったかも。
『えっと確か……Gランクが一ヶ月、FとEが三ヶ月……DとCとBが半年で、AとSが一年以内でしたっけ?』
ハナちゃんが覚えていた通り、一定期間内に依頼を受けないと登録が抹消されちゃうんだよな。
『向田さんは一度再登録して、その後すぐCランクになったんですよね』
「そうそう。あの時はGランクからFランクに上げようとしてたのに、いきなりCランクなんてありか? って思ったよ」
あの時もギルドマスター権限で引き上げてもらったし、今回のハナちゃんもそうなりそう。今のところ登録が抹消されるほど長旅の予定はないけど、猶予は短いより長い方が良いよね。
『私も向田さんのランクに並べるよう頑張りますね!』
……なんてハナちゃんが意気込むけど、その日がすぐ来そうな気がするのは俺だけ??
直近でハナちゃんが戦った魔物っていうと、オークの集落を殲滅した時に40匹くらいと昨日のジャイアントタッコ10匹(キングジャイアントタッコ含む)だっけ。うむ。どう考えたって冒険者ランクGではない。
おかげでレベルも結構上がってきてるし、スキルも着実に増えてるんだよな。
現在のハナちゃんのステータスはこんな感じだ。
【 名 前 】 ハナちゃん
【 年 齢 】 一か月
【 種 族 】 一応アルラウネ(元人間)
【 職 業 】 ダッチワイフ
異世界からの転生者
【 レベル 】 37
【 体 力 】 998
【 魔 力 】 928
【 攻撃力 】 737
【 防御力 】 852
【 俊敏性 】 591
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 風魔法 水魔法 土魔法
触手 アロマテラピー
開花 アルラウネの蜜
【固有スキル】 ステルス 擬態
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護(極小)
火の女神アグニの加護(極小)
土の女神キシャールの加護(極小)
水の女神ルサールカの加護(極小)
戦神ヴァハグンの加護(極小)
鍛冶神ヘファイストスの加護(極小)
まあスキルが増えたのは戦闘全然関係ないんですけど……。
ちなみに最近覚えたスキルの『粘液』はこんな感じ……。
【 スキル 】 粘液
粘着性の高い粘液を吐き出し、相手の動きを鈍くしたり封じ込めることが出来る。
粘液は時間経過と共に硬化し、強力な拘束力を持つ。
便利は便利なんだがやっぱり内容がファンタジー系エロに出てくる触手なんだってっっ。
ただ鞄を修繕したいだけだったのになんかまたちょっとアレなスキルが生えたハナちゃん、可哀想すぎ。
それにしてもハナちゃん、やっぱ強くなってきてるよねえ。でも腕力なんかは普通の女の子のままで、どうもこの【攻撃力】とかは生えてる触手のステータスっぽい。
ステータスを見比べると、大体俺の三倍強い。
……お、俺も少しは頑張るとするか。べ、別にハナちゃんに良いところ見せたいとか思って……思ってますけど……。
俺とハナちゃんって一緒に戦う機会があんまりないんだよなあ。海の幸を満喫したら次はいよいよダンジョン都市だし、多少なりとも良いところが見せられるよう頑張りますか。お。俺だってやる時はやるんです。
「らっしゃいらっしゃい、安いよ安いよーー」
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
そんなことを考えてたら朝市に到着。
よし、仕入れまくって食いまくってやるぞ。
『朝から活気があって、にぎやかですねぇ』
あ、初めてドランの街を見て回った時も同じようなこと言ってたな。あの時とは違って今はステルスを使ってないからにこにこ笑顔がよくわかるぜ。
まあ見えなくてもご機嫌だったのは筒抜けだったけど。繋いだ蔓めっちゃ揺れてたし。
「よく考えたらステルスなしで市場や屋台を見るのは初めてだったよね」
『そうなんですっ!! ……は、はしゃぎすぎて何かやらかさないよう気を付けます……』
「フッフフ……が、頑張って……」
『はい……!!』
ハナちゃん、はしゃいだ声の笑顔から真顔になるまで一瞬。急にスン……てなったのが可笑しくて俺は込み上げる笑いを若干誤魔化しつつ返事をした。
それから俺は宣言通りに買って買って仕入れまくった。
朝市には想像よりずっとたくさんの種類が売られていた。
知ってる魚介類とほとんど同じ物もあれば“ホントに食用?”って疑いたくなるような物まである。
そして大体の共通項として、とにかくデカい。
『はぁーー……異世界の海産物、なんでもかんでもでっかいですねぇ……』
ホントにねえ。
もちろん例外もあるが、どれもこれもデカい。
「おっ、嬢ちゃんいい顔してんね! どうだ、持ってみるかい? 重いやつほど身が詰まってて美味いぞ~」
「!!(こくこく)」
ハナちゃん、どんな魚介類にも目をキラキラ輝かせているからかおっさんにもおばちゃんにも声掛けられがち。
『見てください向田さん!
ハナちゃんの顔くらいあるデカい貝、食べ応えありそう。
見比べて楽しそうなハナちゃんからビッグハードクラムを受け取る。見た目はハマグリそっくりだった。
「おぉ、結構重い」
『(わ、向田さんは片手で持てちゃうんだ……)』
あれ、実際に手に取ってみると思ったより小さい? ……あ、さっきハナちゃんが持ってたから余計にデカく見えてたってことか。
つまりハナちゃんの顔って俺の手のひら大くらいしかないってこと?
手だってもちろん俺に比べたら全然小さいし、さっきだって両手で頑張って持ってたっけ。
顔も手も俺の手ですっぽり覆えちゃうのか。ふーん。なるほど。
そう改めて思い至るとアレだ、なんかこう、アレだな。
正直グッと来るものがあります。
「すみません、これもあるだけください」
『(す、すごく真面目なお顔……!?』
俺はそんなことを思ってるだなんておくびにも出さないよう、キリッと顔を引き締めながら店のおっちゃんにお願いした。
『向田さん、仕入れに本気なんですね……!』
「えっ? うん、そう、はい、そうです」
『?』
そういうことにしといてください。