第七十五話 Dランクスタート
そろそろみんなソワソワし出したので屋台の方に移動する。もう少し見て回りたかったが、朝飯まだだったもんな。もう待ち切れないって言わんばかりにウキウキ進んでいくフェルとスイとドラちゃんの後ろを、俺とハナちゃんが他愛のない話をしながら付いて行く。
『焼き鯖と鯖味噌か選べる朝定食セット、いいですねぇ……』
「あぁ~その二択悩むな~。ファミレス風モーニングもいいよね、トーストとクラムチャウダーとか。アサリそっくりのミニクラムで……」
『あぁ~絶対おいしい~……お、オムレツも付くやつですか!?』
「フフ、付くやつです」
『最高です…………』
最高頂きました。明日の朝飯が早々に決まったわ。この前買った大き目の白い皿に盛り付けたらそれっぽくなりそう。
街に滞在中、というか借家にいる間の朝飯は『チェーン店の朝メニュー』らしく作るのが定番化しつつあってちょっと楽しいんだよな。実は個包装の味海苔や箸置きも既に買ってあったりする。それらをトレーに並べると急にお店っぽくなるのがツボなのか、ハナちゃんは見る度くすくす笑ってくれるのでやり甲斐もあります。
「あ、あと
『今から楽しみです! お魚のスープってなんだかちょっと贅沢ですね』
「え、そう?」
『あれ? そんなことないですか? ……すみません、よく考えたらそもそも魚介類自体が贅沢な気がしてました……』
「い、いっぱい食べよう折角の屋台だし!!」
『は、はいっ!!』
俺はハナちゃんがそれ以上何かしらを思い出さないよう慌てて言った。社畜時代に思いを馳せるハナちゃん、ふっと目から光が消えるからわかりやすいわ~。
鮮明に残ってるトラウマの他、断片的に思い出せる記憶を繋ぎ合わせると結構、いやかなり荒んだ生活を送ってたらしいから今世じゃたらふく美味いもん食って欲しいぜ。
『うむ、美味かったぞ』
『スイ、お腹いっぱーい』
『オメェら食い過ぎ』
『わ、私もお腹いっぱい……』
という訳でたらふく食わせました。
目移りするほど立ち並んでた屋台を制覇する勢いで堪能した。俺とドラちゃんとハナちゃんは途中でギブアップしたけどな。
フェルの巨体と同じ量食えるスイちゃん、恐ろしや。
『ハナお前、いつもより食ってたんじゃねーか?』
『うん!』
ドラちゃんて結構よく見てるよね。ハナちゃんも『折角ですし色んな種類食べたいです!』って張り切ってたので、串焼きは小さめのやつを選んだり、スープを半量にして貰ったりとか工夫してた。
『おいしかったのもあるし、向田さんがちょっとずつ分けてくれたから』
『ふーん、良かったな』
そう、なるべく色々食べて貰うべく、一口分けたり半分こして食べたりしました。
やってることがカップルのソレでこっそり照れていたのは内緒な!
『はー、食った食った』
「その分重いんだけど……」
さっきの会話中からずーっと肩車状態で俺の頭に張り付くドラちゃんを見ながらハナちゃんが笑う。
『ふふ、交代しますか? ドラくん、こっち来る?』
『従魔の面倒見るのは主人の役目だからいいんだよ』
『えー? いつもは来てくれるのに』
『それは俺がハナの面倒見てる時』
『えー!? ……確かに……!!』
『ハナが危なっかしいからだろ、感謝しろよなー』
『いつもありがとうドラくん……!!』
……うむ、今日も俺の従魔たちが仲良し。フェルはのしのし歩いてるしスイは既に鞄の中で寝てるけど。
ドラちゃんはさっきみたく兄貴分みたいな感じで呆れながらも面倒見てるし、ハナちゃんも素直にドラちゃんのこと頼りにしてるんだよね。初手から「ドラくん」呼びがよっぽど嬉しかったと見える。
スイは最初からお世話してたのもあるし、毎日の水遣りは今も続けていて、本人なりにハナちゃんのことを可愛がってるらしい。そんなスイをハナちゃんも可愛がってるので、可愛い×可愛いは超可愛いだわ。
フェルとハナちゃんはハナちゃんがフェルのこと敬うしフェルも満更でもないみたいだし、魔法も教わったりしてるから若干師弟っぽいっていうか、フェルが師匠面してるんだよな~。
それだけ解せぬ。
だって我こそは伝説の魔獣です~って顔でハナちゃんに
今考えてもやっぱりちょっと、いやはっきり言ってアホ……
『……お主、今何か言ったか?』
「い、言ってない言ってない。気のせいじゃないか?」
『ほう、何か不敬なことでも考えている顔だったぞ』
なんでわかるんだよっっ。
俺がフェルとああだこうだ喋ってるとハナちゃんの笑い声が聞こえてくる。
『ふふ、やっぱり仲が良いですねぇ、向田さんとフェル様』
『そーか?』
……ま、まあ、今日もハナちゃんが楽しそうなら何よりです。
そうこうしてるうちに冒険者ギルドに到着。
クラーケンおよび昨日預けて解体してもらった諸々の受け取りと、ついにハナちゃんの冒険者登録だ。
結論から言えばハナちゃんはDランクからのスタートとなりました。
やっぱりか。ギルドマスター権限、有難いね。しかしまたなんでD?
疑問に思って聞いてみれば、Bランクのキングジャイアントタッコを単騎討伐しているからかなり悩んだそう。
俺の時みたいに最初のGランクをすっ飛ばしてCランクになるケースもかなり異例だし、変な噂が立ってもハナちゃんが困るだろうから……という理由でDランクからにした、ということだった。
「変な噂って、例えばどのような……?」
「そうさなあ。例えばギルドマスターの俺に金を積んだだの、色を売っただの……ろくでもねえヤツさ。たまにいやがるんだよ、自分より高ランクの冒険者を舐めくさって喧嘩吹っ掛ける馬鹿が」
はいはいなるほど、お前みたいな弱そうなヤツが〇ランクなんて嘘だろ~ってお決まりテンプレのように絡んでくるチンピラのアレか。嫌だが? 賄賂渡したりか、体売るような不名誉な噂がハナちゃんに付いて回るなんてダメだろっっ。
「安心しろ、周りにはよくよく言い聞かせる。つうかそんな噂が出回ったら舐められてんのはギルドマスターの俺ってことになるだろうが? 売られた喧嘩は必ず買う、だから嬢ちゃんは心配しなくていい。なっ」
マルクスさんがハナちゃんを安心させるようにニカッと笑った。ムキムキのおっさんの凄みがある笑顔だが、ハナちゃんは応えるようににこっと笑って頷いた。
ハナちゃんの実力が本物ならすぐランクを上げられるだろうし、次の街に行った先で一つずつ上げていけばいい……とのこと。
「嬢ちゃんじゃなくてお前の従魔に狩らせてるんじゃねえか、ってのはあちこちで言われるかもしれねえが、ま、頑張れよ」
「……肝に銘じておきます」
「(こくり)」
正直その可能性は大いにある。それだとハナちゃんもある程度戦えますよ~アピールには繋がっていかないんだよなあ。ハナちゃんの自衛のためにもそこんとこ大事なんだが。
「まっ、そもそもお前のパーティーに喧嘩吹っ掛けるような馬鹿はいねえと思うしな! ガハハハハハ!」
「あ、あはは……そうですかね?」
~side受付嬢たちの噂話~
「……ねぇ、さっきの?」
「ええ、間違いないわ……」
「あれが本物のフェンリル……グレートウルフじゃないのね。それで、頭に小さなドラゴンへばりついてた男の……隣にいた子? あの子が?」
「あの子よ、伝説の魔獣フェンリルから直々に魔法を教わったって言う魔法使いは……! ああ、恐ろしい……!」
「そうかしら? 普通の子に見えたけど……むしろニコニコしていて感じがよかったわよ」
「だってあんな、あんな大きくてブヨブヨしてウネウネした悪魔をたった一人で仕留められるなんて……!」
「……アンタ、タッコ嫌いだものね」
「ああ……! 恐ろしい……! Dランクになるらしいけど、きっと嘘よ……本当はもっと……!」
「はいはい」