第七十六話 あれ? これ詰んでね??
ハナちゃんが狩ったタッコだが、クラーケンと違って素材になる部分が少なく、ほとんど食用なんだそう。ただBランクのキングジャイアントタッコには結構大き目の魔石が入っていて、それが金貨20枚になった。……というマルクスさんの説明を聞いてたハナちゃんが嬉しそうだったもんで、俺まで嬉しくなっちまった。
ハナちゃんが自分で仕留めましたよ~ってことが、少なくとも冒険者ギルドにはちゃんと伝えられるようになってよかったよねえ。
マルクスさんが言ってたように、俺のパーティー=従魔がとにかく強くて規格外ってイメージを持ってる周りから「あの子は自分で戦ってないんじゃないか?」って思われる可能性はあるかもしれないけどさ。
でも前みたいに依頼の受注から完了までずっとステルスを使ってたら、ハナちゃんの功績も実力もずっと見えないままになっちまう。
今後も非戦闘員じゃありませんよ~ハナちゃんも戦えますよ~アピール、続けていくぜ。ハナちゃんの自衛のためにもな。
さて、ハナちゃんの冒険者登録も終わったし、クラーケンとシーサーペントとアスピドケロンとキングジャイアントタッコの買取金も受け取った。
最後にマルクスさんに頼まれていたダンジョン産をメモしたリストを渡したら、検討したいから明後日にまた来てくれって言われた。ダンジョン産以外もオススメしたら流石に時間が欲しいらしい。
出来れば捌ける時に捌きたいんだよな。ハナちゃんはともかく、みんな後先考えずに狩るもんだから高ランクの素材が俺のアイテムボックスで大量に眠ってるよ。
「あんまり溜め込みすぎても管理が大変だからさ……」
『買い取って貰えるといいですねぇ、地竜のあれこれ……』
なんて雑談しながら俺達は借家に戻った。
そしてすっかり忘れていた神様ズへの捧げ物をようやく思い出してそこそこ大変な目に合いました……。
『お疲れ様でした向田さん……』
「ありがとうハナちゃん……」
労わりの言葉をかけてくれるハナちゃんにお礼を言った。
はあ、やっぱり神様たちの相手は無駄に疲れるね。
まさか一週間に一度って約束を破ったからって、今度からずっと一人金貨1枚でやってくことになるなんてね。買える物が増えるからってかかる時間も増えたし。
『だ、大丈夫ですか? その、向田さんのご負担的に……』
「ま、まあ頻度は一週間に一度だし……それを忘れてたのは全面的に俺が悪いからなあ」
『向田さんがそう言うなら……。神様の方々、ネットスーパーの商品にすっかり夢中ですねぇ』
ホントにねえ。
神託ってあんなホイホイしていいもんじゃないよな、絶対。
「ハナちゃんは? あれから創造神様から神託とかってあったりした?」
『いいえ、全くないです』
うーん、多分こっちが普通なんだよな。
加護を貰ってる身だし世話にはなってるけど、神様ズに振り回されたりたまに覗き見されたりする俺としちゃ、転生後に一切声をかけてこない創造神様の心証はかなり良い。
『神託はありませんけど、最近は寝る前にお祈りしてますね。転生させてくださった創造神様と、加護を授けてくださった神々と、む゛っっっっ……すみません、噛みましたっ!!(あっっっぶない……!!)』
「う、うん大丈夫??」
『ひゃい……(む、向田さんご本人に言うところだった……!! さすがにそれは……気持ち悪すぎるのでは……!?)』
【注・閑話「一世一代のわがまま」参照】
び、びっくりした、そんな盛大に噛むことある?? 噛んだのが恥ずかしいのかハナちゃんは顔を真っ赤にしてる。フフ。
「毎日祈ってるなんて知らなかったわ、偉いねハナちゃん」
『い、いえ、お祈りと言っても簡単にお礼を念じてるだけなので……』
「いいんじゃないか? 神様的には信仰心って大事らしいし、それで充分だと思う」
感謝の気持ちも信仰心に数えられる……かはわからないが、まあ神様達も悪い気はしないだろうし。
俺のお祈りは週一の捧げ物(物理)ってことで。
「そうだ、さっき見てて気になる物とか補充品ってある? 今買っちゃおっか」
『いいんですか? お時間大丈夫です?』
「夕食にはまだ早いから大丈夫。焼き肉丼は簡単だし、まだみんな寝てるし」
たらふく魚を食べたから夜は肉がいいってリクエストされてるんだよね。
『ありがとうございます、じゃあお言葉に甘えますね。あ、お茶淹れます』
「おっありがと」
そう言いながらハナちゃんは器用に蔓をするする伸ばして行った。何度見てもよく伸びる。あと便利。
「ニンリル様が選んだのだと、このイチゴタルトとか美味そうだよね」
『いいですね! つやつやで綺麗ですし、スイちゃんも喜びそう』
「フェルはなんだかんだでショートケーキに落ち着くんだよな~」
『ドラくんもすっかりプリン党になりましたしねぇ……』
今度のデザートの吟味も二人だとやたら楽しい。役得役得。
しばらくすると蔓がお湯の入ったポットを持って戻ってきたのでお茶を淹れた。同じ物を飲む日もあるけど、なんとなく俺がコーヒー、ハナちゃんが紅茶を選ぶことが多い気がする。今日は二人とも玄米茶にした。冒険者ギルドで出して貰ったお茶が玄米茶っぽかったから、なんとなく気になってポチッてみた。
『あ、おいしい』
「ね」
ほっと一息。
はあ、こういう時間がずっと続いて欲しいわ。
……ずっと続いてもらうためにも色々考えないとな。
ちらっと横目でハナちゃんを見ると、わかりやすくご機嫌だった。見てこの笑顔。のんびり玄米茶を飲みながらにこにこしてます。ぐわあ。
そう、俺がこれ以上いくら可愛いな好きだなと思っても主人と従魔の関係でいる限り進展はない訳で……。
というか進展させたらダメだろ普通に考えて……。
だってさ、『主人』からの好きです付き合って下さいなんて、形だけでも命令みたいに見えるのが嫌なんだよな。
俺が嫌なんです。
仮に気持ちを伝えるとしてもせめて主従関係を解消してからが筋だってこの前も考えたが、具体的にどうやって?? って話でさ。
よくよく考えてみればそれ以外に問題はいくつもある。
現状、一応アルラウネのハナちゃんと意思疎通が出来るのは従魔契約のおかげで念話が使えるからであって、従魔契約が破棄出来たとしてもハナちゃんが肉声で話せるようになっていないとダメだよね。
あとは……あんなのでも伝説の魔獣で人語も話せるフェルはともかく、別種族で恐らく言語も違うであろうスイとドラちゃんと会話が出来ているのも『同じ従魔』だからだ。
あれ? これ詰んでね??
だってハナちゃんみんなのこと大好きだし今みたく喋れなくなったら絶対悲しいし寂しいよな……。スイも『ハナちゃんと喋れなくなるのやだーー』ってイヤイヤブルブルしそう。フェルとドラちゃんは『こやつだけ不便ではないか?』『おい、可哀想だろーが』とか言いそう。
ハナちゃんと従魔契約を結んだ時だって、ハナちゃんが『早くお話がしたくて……』って思ったのと俺が「詳しく話を聞きたい&こんな子が従魔だったらそりゃ嬉しいけど……」って思ったから成立しちまったんだよ多分。
ゆるすぎる、この世界の従魔契約。
もしかして俺はともかくハナちゃんが望んでる限り従魔契約って破棄できないんじゃ……??
あれ? やっぱ詰んでね??
ここまで破棄が出来る前提で考えてるけど、そもそも破棄出来ない可能性も全然ある。
神様ズに聞けたら早かったけど、寄ってたかって勘ぐられたりニヤニヤからかわれるのが目に浮かんだから却下。
ハナちゃんを転生させてくれた創造神様とやらとコンタクトが取れたら一番なんだけどな~。
俺の中の心証もかなり良いし、この世界を創造してる神様なら従魔契約の仕様なんて絶対知ってるだろ。
「……ハナちゃん、もし創造神様から神託あったら教えてくれるか? えっと、俺も挨拶したいし」
「? はい、もちろん!」
ま、まあ挨拶したいのも嘘じゃないから。快諾してくれたハナちゃんの笑顔ももちろん眩しかったです。
結局、今焦ったところで俺から何が出来る訳でもない。せいぜいハナちゃんからの信頼や好感や敬意を失わないよう、むしろ増し増しになるよう努めるしかないぞ向田剛志。頑張れ俺。
問題を全部解決してくれるような、それこそ“神の一手”があればなあ。
……解決したからって告白出来るかどうかは別問題だけどなっっ。