第七十八話 一緒に詰め替え作業
朝から冒険者ギルド、商人ギルドの順で出かけた俺達は雑貨屋に足を運んでいた。「あのー、すみません。こちらの木箱と壺なんですが、あるだけ全て購入することは可能ですか?」
「あ、あるだけっ? 構わねぇが兄ちゃん、金はあるんだよな?」
「え、ええもちろん。もし他にも在庫があるようでしたら見せて頂けると助かります」
「ざ、在庫もか!? ちょ、ちょっと待っててくれ!!」
店主らしきおじさんは慌てたように裏に引っ込んでいって「とんでもねえ上客が来たっ!!」という声も聞こえた。すみませんね突然。俺としても急務でして……。
『このお店だけで足りるでしょうか?』
「うーん、数によってはもう何軒か見て回るかも」
なんで木箱と壺を大量に購入してるかと言うと、ランベルトさんから至急石鹸やらシャンプーやらを仕入れたいと連絡が来たからだった。
冒険者ギルドで買取して貰えることになった品々を渡した後、商人ギルドの方に呼び出されたんだよね。
そこで待っていたのはランベルト商会の仕入れ担当者だって言うアドリアンさん。
カレーリナの街を出る時にたっぷり在庫を置いてきたと思ったんだが、どうも販売個数を制限しても売れに売れているらしい。嬉しい悲鳴ってやつだな。
それで明日の朝までに詰め替えした物を用意しないといけなくなったって訳だ。
石鹸は合わせて1500個、シャンプー類も合わせて1500本、総額なんと金貨1185枚分をな。
例えばリンスインシャンプーは1000本分の注文だから、仮に1本400mlとすると単純計算で400L。店頭に並んでいた壺は幸い俺の腰の高さより少し低いくらいの大きさで、100L入るか入らないかってとこか?
途中で足りなくなっても嫌なので木箱と壺は少し多めに買うつもりだ。余っても予備として手元に置いといてもいいし。
詰め替えをするにはものすごい物量だが、まさかプラスチックのパウチをそのまま渡す訳にもいかないからね。
それに今回は『もちろんお手伝いします!』ってハナちゃんが名乗り上げてくれたんで、前回に比べてもかなり楽になると思う。単純に人手があるのも有難いし、人の手だけじゃなく蔓も2本ついてる。ありがてぇ。
しばらくするとさっきの店主らしきおじさんが従業員を引き連れて木箱と壺をあるだけ持ってきてくれた。
「お、これだけあれば足りるかも」
『よかったです! フェル様もスイちゃんもドラくんも、もうお腹空いてるみたいですし』
『お腹すいたー』
『ふふ、お買い物はもう終わるってスイちゃん』
『ほんとー?』
『ほんとー』
うむ、可愛い×可愛いは以下略。鞄の中からぴょこんと顔を出してスイが『早く帰ってあるじのごはん食べたーい』と言ってくれた。癒し。ちなみにフェルとドラちゃんは興味ないんでいつものように外で待ってます。
今日の予定が冒険者ギルドだけだったら昼はまた屋台巡りでも……と思ってたんだけどねえ。ま、滞在中に機会はあるだろうしまた今度だな。
さっさと木箱と壺を買って帰って昼飯食ったら詰め替え作業だ。
昼飯は贅沢にエビとイカたっぷりの海鮮焼きそばにした。折角なんで普通のソース味と塩味の2種類作ってみたら、スイとハナちゃんにはソース、フェルとドラちゃんには塩が好評でした。どっちも美味いよね。
思わずビールに手が伸びそうになったが作業があるので諦めたわ。ま、まあ昨日たらふく飲んだからまだ我慢出来るぜ。
昼飯後リビングで作業するって伝えたらフェル達は庭でグースカ昼寝し始めたよ。いつもの光景にハナちゃんはくすくす笑う。
「さて、始めるか。ありがとねハナちゃん」
『とんでもないです! これくらいお手伝いさせてください』
ええ子や……。後で必ずやお礼をしたいところ。
まずはネットスーパーで頼まれた物を購入していく。安価な石鹸は1000個、ローズの香り付き石鹸は500個だ。
『段ボールでリビングが埋め尽くされそうですね……』
「さすがにねぇ……」
豪邸を借りてるおかげで作業スペースが充分に確保されているとは言え、一度に注文すると大変なことになりそう。とりあえず100個購入っと。
すぐに段ボールがドサドサと積み重なる。
うーん、圧巻。
俺のネットスーパーって買ったらすぐ届くけど段ボールがどこに出現するかってまでは指定出来ないんだよな。いつもいい感じに出てきてくれるけど。
『あ、でも思ってたより箱が小さめ……?』
「うん、これならもう少し置けそう」
『じゃあ端に寄せちゃいますね~』
ハナちゃんは『よいしょ』と蔓で段ボールを一気に移動させてくれた。ま、前より力持ちになってる。
追加で400個分購入して、ひとまず石鹸500個からスタート。
段ボールを開封、石鹸を外箱から出してビニールを剥き、麻袋に入れて木箱に詰めていく。
これの繰り返し。
全部で1500回……と思うと気も遠くなるが、俺にはハナちゃんという強力な助っ人がいるからな。
本来なら邪魔になってしょうがないゴミもすぐアイテムボックスに一旦入れておけるし、2本の蔓のアシストで作業ペースもかなり速い。
『私達、今どこからどう見ても石鹸業者ですね……!』
「あはは、確かにそう」
もちろん精神的にもかなり有難いぜ。ただひたすら黙々と一人で作業するのとは大違いだ。
雑談を挟みつつもせっせと手を(ハナちゃんは蔓も)動かして、なんと石鹸の梱包は夕飯前に終わると言う快挙を見せたのだった。
昼寝から目が覚めたスイに段ボールその他を処分してもらって、夕飯と速めの風呂を済ませたら次はシャンプー類に取り掛かる。
『超特大サイズの詰め替え用……!? これでずいぶん楽になりますね、向田さんっ!!』
通常の6個分という今の俺達にとってなんとも有難い商品を発見したハナちゃんが、俺の方を振り返ってそれはそれは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。ぐわあ。眩しい。あと相変わらずいい匂いがするっっ。
そうなんです、風呂上りなんですよこの子。そこまで遅くならないかもしれないが寝る準備は先にしといた方がいいよねってことで早めに風呂に入ったのは当然の流れだとしても風呂上りかつパジャマです。俺もそうなんですけどね。
健全な成人済男性に好きな子の風呂上りとパジャマ、目の毒すぎる。同時に眼福でもある。どうしろと。どうもしないんですが。
俺はきゅっと唇の裏側を噛みながら色々に耐え、リンスインシャンプーをまず半量の500本分買った。
段ボールを開封、詰め替え用のパウチを取り出して、壺にひたすら注ぎ込んでいく。
石鹸よりも手数が少ない分、シャンプー類の方が楽ちんだし余裕がある。
だからか、ハナちゃんは手を動かしながらずっと笑ってる。
『ほ、ほんとにへんてこな格好……ふふ、あははっ』
もしかしたら汚しちゃうかも……という懸念に二人してパジャマの上にエプロンていう謎の装備です。
エプロン、ハナちゃんから借りました。
『でも向田さん、そのエプロン似合ってます!』
「そ、そう?」
『はいっ』
力強い同意、頂きました。
若干恥ずかしい気もするが、ハナちゃんが楽しそうだからいっか。
作業はどんどん進み、いつもより少しだけ夜更かしくらいの時間に終わった。
「お、終わったーーー」
『おつかれ様でしたーー!!』
最後の詰め替えが終わると同時に小さくハイタッチして喜びを分かち合う。
「いやほんと助かったよ、ありがとうハナちゃん」
俺一人だったら、徹夜まではいかないとしても絶対次の日寝不足気味になってただろうな~。ハナちゃんと一緒だったから単純作業も苦じゃなかったし。ありがたや。
お礼を言われたハナちゃんはえへへと照れくさそうに『どういたしまして、これからもいつでも手伝います!』と言ってくれた。
『おやすみなさい向田さん。また明日』
「また明日。おやすみハナちゃん」
軽く手をふって隣の部屋に入っていくハナちゃんを見送って、俺も部屋に入った。もちろん街に滞在中は別室です。
ふー、疲れた。ベッドに向かうといつものようにスイとドラちゃんが布団の上で転がっていて、ふかふかの絨毯の上でフェルが丸まってる。
起こさないようにそろそろと布団に入った。
……手伝ってくれたお礼、したいよなーやっぱり。
食べ物……は絶対喜んでくれるだろうけどいつもと変わり映えしないもんな。
海の街なんだから貝とかなんかこう、特産品使った土産物とかあったら記念にもなって良さそう。
そんなことを考えながら俺は眠りについたのでした。