第七十九話 宣伝活動ヨシッ

 次の日、約束通りアドリアンさんは朝一に俺達の借家まで来てくれた。
 受け渡す前に一応木箱と壺の中身をそれぞれ説明して確認もしてもらう。
 例えば木箱は香り付きの方に簡単に印を付けておいたし、壺は種類ごとに形が違う。色とか香りが違うから開封すればすぐわかるだろうけど、カレーリナに届いてからもあっちはあっちで地獄の詰め替え作業が待ってると思うと……お疲れ様です。しかも俺達みたいに小から大に移すより、大から小に移す方が大変だよな。
 少しでも作業がしやすいようにしといた方がいいよね、というちょっとした配慮のつもりだったがハナちゃんにはこれでもかと褒めちぎられました。ランベルトさんには世話になってるし、これくらいはね。
 アドリアンさんの部下らしき人達が大量の木箱と壺を荷台に運ばせている間に、俺は両手で持てる大きさの木箱を取り出した。
「アドリアンさん、荷物を増やしてしまって申し訳ないのですが、こちらもランベルトさんに届けて頂いても?」
「これお一つで? この程度の大きさなら問題ありませんよ。念のため中身を伺っても?」
「見てもらった方が早いですね」
 まだ封をする前なのでパカッと蓋を開けた。緩衝材の代わりに敷き詰められた布にくるまっているので、それを取り除くと中にはハナちゃん作のアロマテラピーポプリが入っている。
 昨日アドリアンさんから頼まれた時点で思いついてハナちゃんに用意してもらった物だ。
 フフ、この機会をみすみす逃す手はないよな。
 効果も見栄えも確かだしものすごく売れるだろうという確信はあるんだが、正直適正な値付けが俺達に出来るとは思えないんだよねぇ。
 だからハナちゃんが話せるようになったタイミングで、どこかしらに意見を仰ごうって話は元々してたんだ。今までみたいに個人的に渡すのとは違って、商売をする上で本人の口から商品説明が出来ないのは流石に不自然だからな。
 で、フェル曰く『ダンジョンで戦いまくればレベルも上がるし体の使い方も理解が進んで話せるようになるだろう』とのことで、本当に上手くいったら次のダンジョン都市で話せるようになる、つまりそこの商人ギルドを相談先にしようと考えてた。
 でも直接ランベルトさんに見てもらえるんなら話は別だ。
 まだ行ったことも話したこともない商人ギルドを頼るより、ランベルトさんなら安心して任せられるし、判断も信じられるからね。
「これは私ではなく、ハナの……えーと、ツレが作った商品なのですが、是非ランベルトさんに意見をお伺いしたく。彼女が書いた手紙も一緒に入っていますので、よろしくお伝え下さい」
「ああ、昨日ムコーダ様とご一緒にいたお連れ様の……承知しました。ガラス製のポットですか……慎重に運ぶとしましょう」
 思わずツレって言っちゃったけど間違ってはない……よな?
 ま、まあ身内ってことは昨日も挨拶の時に言ったし大丈夫だろ。
【注・相変わらず外堀を埋めています】
「本人不在のお願いで申し訳ありません、昨夜少し無理をさせてしまって……」
 ちら、と運び出される木箱と壺へ意味ありげに視線を送る。
 これだけの量をご用意するのに二人がかりで何とか終わらせましたよ、と暗に伝えたつもり。
 もちろんハナちゃんのおかげでそこまで大変じゃなかったのでこれは正しくない。 
 フェルが言った通りになるなら、ハナちゃんがカレーリナの街に行く頃には喋れるようになってるはず。
 だからランベルトさんとその関係者には「喋れない」っていう印象は与えない方がいいよねってことで俺が説明役を買って出たってわけだ。
「そうでしたか。それはそれは……」
 アドリアンさんはにっこりと意味ありげに頷いた。
 ……いや、あの、違いますからね。「昨夜少し無理をさせてしまった」ってそういう意味じゃないですからねっ?
 慌てて弁明しつつ誤魔化すように咳払いをする。
「ゴホン。そ、それともう一つ、これはアドリアンさんに」
「?」
 少し怪訝そうな顔をしたアドリアンさんだったが、すぐにほうっとため息をついた。
「これは……? なんとも心安らぐ香りですな」
「御守りなんですって。『道中どうぞご無事で』と彼女から言付かっています。実はそれ、先程のガラスポットと同じ物が入っている小型の香り袋でもあるんですよ。こう、首から下げて頂いて……軽く服の上からぽんぽんと叩くだけで香りが広がるでしょう?」
「おお、本当ですね!」
 そちらなんと新商品でございます。
 と言っても違うのは大きさだけ。通常のアロマテラピーサシェよりひと回り小さな袋に詰めて首から下げられるように紐を通した物だ。見た目もちゃんと御守りっぽい。
 ハナちゃんが付与したアロマテラピーには所持者の体力・魔力を持続的に回復させる効果がある反面、リラックスし過ぎて力が抜けちまう。
 新商品の御守りは、
 ①小さくして香りの範囲を狭め、
 ②首から下げて物理的に距離を取り、
 ③叩いて香りを広げる。
 ……という工夫により、任意のタイミングでリラックス効果を引き出せるように改良したってわけだ。
 その分効果は落ちるけど、それでもすごいんだよな……。
 鑑定結果はこんな感じ。


【アロマテラピーサシェの御守り】
 アロマテラピーのスキルが付与されたサシェの御守り。匂いを嗅ぐと心身共にリラックスし、興奮状態を落ち着かせる。また、所持者の体力と魔力を1時間ごとにおよそ3%ずつ回復させる。使用期限は約半年。


「なんと疲労回復と安眠効果があるんですよ。癒しが欲しい時や寝る前に叩いてみて下さい」
「是非試してみます。ありがとうございます、ハナ様にどうぞよろしくお伝え下さい」
 宣伝活動ヨシッ。
 アドリアンさんが出発するのと同時に、ぱたぱたと小走りでハナちゃんが玄関先にやってくる。
 荷馬車に乗り込んだアドリアンさんに一礼しつつ、一緒に見送った。
『向田さん、説明と受け渡しありがとうございました』
「どういたしまして。御守り、喜んでくれてたよ」
『! よかったです!! これから急いでカレーリナに戻るって、きっと大変でしょうから……』
 確かに。護衛を雇っているとは言え、大事な商売道具を運んで長距離を移動するのってかなり神経削りそう。
「俺達ってフェルもいるしアイテムボックスもあるし、道中かなり楽してるよなぁ」
『ありがたいことですねぇ……フェル様と創造神様さまさまです』
『ほう。ならばもっと感謝を示してもよいのだぞ』
 聞いてんのかよ。
 話しながらリビングに向かうと皆起き出してた。
『恐れ多くもその背に乗せて頂けること、有り余る光栄に思います。いつもありがとうございます、フェル様!』
『フスンッ、そうであろうそうであろう』
 得意気ですねフェルさんや。ま、ありがたいのはその通りだし今朝も張り切って美味い飯でも作りましょうかね。

 今日の予定はまた冒険者ギルドに行って、査定が終わった品物の買取代金を受け取って、その後は……どうしよっか??
 詰め替え作業のお礼になりそうな物も探したいし、海の街を散策するのもいいよな。
「昼飯は屋台で済ませて、そのまま午後はちょっと観光したいんだけど……」
『ふむ。観光はどうでもいいが、焼き立ての魚介類はなかなか美味かったからな、よかろう』
『スイまたいーっぱい食べるよー』
『いいぜ。俺も観光はどうでもいいけどよ』
『わ、私はどっちも楽しみです!』
 皆に今日の予定を伝えると大体予想通りの答えが返ってきた。観光は俺とハナちゃんだけでも楽しむとします。  

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