第八十話 海の街の思い出に

 朝飯を済ませて冒険者ギルドに行き、昨日渡したダンジョン産の品+地竜の血の買取代金を受け取った。結構捌けてよかったぜ。〆金貨1213枚と銀貨3枚。
 アドリアンさんからは金貨1185枚を受け取ったので、既に約2400枚の金貨を手に入れたことになる。
 正直もう慣れつつはあるがやっぱりすごい金額だよな。だって金貨1枚って日本円に換算したら10000円だよ、1諭吉。いや俺がこっちに来てる間に諭吉じゃなくなってるかもしれんけど。
 つまり金貨2400枚ってことは2400万ってことで……。2400万て。しかも今日だけで。たまに空恐ろしくなるわ。
 まあこの金は俺の力だけで手に入れた物じゃなくてあくまで皆のおかげだから、今後も還元していきたいところ。主に飯で。
 それと冒険者ギルドのギルドマスターであるマルクスさんに、商人ギルドのギルドマスターからもダンジョン産の品を買取りたいと頼まれたことについて相談した。
 昨日商人ギルドに呼び出されたのはアドリアンさん経由でランベルト商会にシャンプー等を卸すためだったんだが、帰り際あっちのギルマスのゲルトさんに頼まれたんだよな。是非ともダンジョン産の宝石類が欲しいんだって。
 海賊みたいなマルクスさんとは違ってひょろっとした細見のおじさんて感じの見た目だったけど、相手は経験豊富な商人ギルドのギルドマスターなわけで。前回、ドランの商人ギルドでも一人だったらきっと上手いこと丸め込まれてたと思うし、今回も冒険者ギルドの協力を仰ぎたい。
 話はとんとんまとまって、宝石類に詳しいというカルロッテさんを紹介してもらい、明日皆で商人ギルドへ行くことになりました。
『マルクスさんも立ち会ってくれるなら一安心です!』
「ね。明日の昼過ぎって約束だから、それまでまた朝市で魚介の仕入れでもしようかな」
『いいですね、時間もちょうどよくて』
 俺達は冒険者ギルドを後にして、明日の予定を話し合いながら移動した。
 屋台が出ていた広場に行くと、もう朝市は終わっている時間だった。前に来た時より賑わいこそ落ち着いてはいたが、見て回れるだけの屋台は出てたしよくよく見れば土産屋らしき出店もあった。うむ、こっちもちょうどいい。
 観光がてらいくつか寄らせてもらって、ハナちゃんが喜んでくれそうな物を見繕うとしよう。
『よし、あの魚を食うぞ』
『おうっ』
『お魚~』
 まずは飯からですけどね。2回目の屋台でも皆食う気満々だ。
『あ、まだ食べたことないお魚ですよ』
「お、ホントだ。食べてみよっか」
『はい!』

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 昼飯を屋台で済ませると、まず近場の出店から見てみることに。
 相変わらず興味のないフェルとドラちゃんは広場の中央で寝始めた。そこ??
 フェル達を物珍しそうに見る目線はなくはないけど、俺達はもう噂になってるらしく、特別騒ぐ人も絡む人もいないっぽい。海の街の人達、胆が据わってそうだもんな。あんまり離れなければ安心して回れそうだ。
 飯時が過ぎたのか飲食物を売ってる屋台はいつの間にかまばらになっていて、その空いたスペースに布やらござを地べたに敷いた出店が増えた気がする。異国情緒溢れてるねえ。マンドリンに似た楽器で演奏してる人なんかもいて、出店を覗きながらちょっと歩いてるだけで楽しいわ。
『ちょっと歩いてるだけで楽しいですね!』
 フフ、同じこと思ってた。ハナちゃんの笑顔も頭の花も心なしかつやつやしてる。ご機嫌ですね。
 でもスキルが誤作動したり新しく花が咲いたりする様子は今のところない。
『ステルスなしで出歩くのも慣れてきた?』
 スキル名を大っぴらに出さないよう念話で話しかけると、ハナちゃんははにかみながら頷いた。
『お、おかげさまで……実は、時々こっそり深呼吸して気持ちを落ち着かせてます』
 うーむ、少しずつ制御出来るよう頑張ってるんだな。
『そっかそっか。なんか異変があったらすぐ教えてね』
『ありがとうございます、向田さん(やさしいなあ……)』
 慣れ始めが怖いとも言うし。喜びのあまり花が咲く、って仕組み自体は微笑ましいんだけどね。いくらステルスで隠れられるからって街中で満開になっちゃうと流石に……ま、まあそうなったとしても全力で誤魔化すけどな!
「こんにちはお嬢ちゃん達、どうぞ見ていってちょうだい」
 いくつか出店を見ていると声を掛けられた。
 こんがりと日焼けした婆さんがハナちゃんにバチンとウインク。海の街はお年寄りも元気。
 声を掛けられて嬉しかったのか、ハナちゃんが笑顔で『いいですか?』とこっちを見てきたので頷いた。
 一緒にしゃがみ込んで見せてもらうのは大小様々な貝殻細工。
 年季の入った絨毯の上には仕切りの付いた浅めの箱が何個も並んでいて、貝の色や大きさ・種類で分けられた貝殻細工が入っていた。
 聞いてみるとどれも手作りなんだそう。
 これがすごいのなんのって。
 例えばこの犬の置き物、1cmくらいの小さな二枚貝を組み合わせて耳と顔と体を作り出している。こ、細かい。こっちの3cmくらいの巻貝の貝殻細工は研磨してあって表面はつるつる、なんと渦巻き模様を尻尾に見立てて寝てる猫を表現。
 こういった細々とした小さな置き物もあるし、婆さんの隣に堂々と飾られているような大きな置き物もあって、それがまさかの帆船模型。
 手のひら大はあるであろう貝を何枚も組み合わせて、帆船の帆にしているという海の街らしい逸品。
 うーん、見事な職人技だ。
 ハナちゃんは目をキラキラさせて、言葉の代わりに拍手で婆さんを讃えてる。いやあ、これはすごいね。
「聞いたよ、あそこで寝てる狼と小さな竜は兄ちゃんの従魔なんだって?」
「え? ええ、はい」
「クラーケンを討伐してくれて助かったよ、あんがとねえ」
「いやあ、うちは従魔が強いので……お役に立てたなら何よりです」
「あらまあ、強い魔獣を従えられるのもすごいでしょうに」
『(向田さんが褒められてる!)』
 おお、改めて直接お礼を言われるとなんとも照れるね。ハナちゃんから『向田さんが褒められてる!』と言わんばかりの視線と笑顔も照れくさいぜ。
「お礼に、どれか買ってくれるなら割引するしオマケも付けてあげましょうね。うちの貝殻はベルレアンのお土産にぴったりよ」
 婆さんはそう言ってまたウインク。商売上手~。
 でもホントにぴったりだし、ハナちゃんも喜んでくれそうだな。
「ハナちゃん、好きなのいくつか選んでくれる? 詰め替え作業のお礼がしたくてさ」
『――――えっ!?!?』
 そ、そんなびっくりすること?? ハナちゃんは俺の顔を見ながら硬直して目をまんまるにしている。目も頬も、ついでに頭の花もぴっかぴかだ。よ、喜んでくれてる……と思う、同じくらい驚いてる顔って感じ。
 それからハッとしたように何度もこくこく頷いて、ギギギ、とものすごくぎこちなく貝殻細工にハナちゃんが視線を移す。
『ありがとうございます、向田さん……! えっと……あの……その……』
 言葉をもにょもにょ濁したハナちゃんは、意を決したように立ち上がった。俺が思わず見上げると、
『…………ちょ、ちょっと深呼吸して来てからでもいいですか?』
「…………ど、ど、どうぞ」
『すぐ戻りますっっ!!』
 そう言ってフェルとドラちゃんが寝てるところまでハナちゃんがパタパタ走っていく。
「あらまあ、どうかしたのかい?」
「え……っと、どの貝殻細工を買うのか俺の従魔にも相談したいみたいで」
「仲良しなのねえ」
「ええ、はい、あはは……」
 俺は咄嗟にそれらしいことを言って誤魔化した。
 あの慌てたハナちゃんの様子……深呼吸して一旦心を落ち着けないと花が咲いちゃうくらい喜んでくれてるってことで……い、いいんだよな?
 ただのお礼にそこまで喜んでくれるなんて、もしかしてハナちゃんも……なんて期待してしまうんですが。
 ……流石に脈ありか脈なしで言ったら前者じゃないか?
 し、慕われてるのは確かだし、好意も敬意も感じてるけど……いやでも……。
「あ、あの、こっちに置いてあるのはなんですか?」
「ああこれかい。これはね、海の魔物の魔石が波に揉まれて、砕けて小さくなってくうちにこうやってまあるくなっていったもので……」
 俺は婆さんに話を振って浮つきそうになる気持ちを無理やり抑え込んだ。
 せ、急いては事を仕損じると言いますし。とりあえずハナちゃんが戻ってくるまでに普通の顔に戻っとかないとっっ。
 俺はにやけ笑いを堪えるために、婆さんの商品説明をそれはそれは真剣に聞いたのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

『ど、ドラくん、喝を……喝をください……!!』
『だぁーっ、またかよハナ! しっかりしろ!』
『修行が足りぬな』  

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