第八十二話 カキのオイル漬け

 次の日。今日は商人ギルドに行ってダンジョン産の宝石を買い取ってもらう予定だ。
 朝市で追加の魚介の仕入れを大量にした後は、また屋台巡りをして朝飯兼昼飯を済ませた。
『朝市、前よりもかなり賑わってましたねぇ』
「ね。クラーケンがいなくなったから漁獲量も元に戻ったっぽい」
『何よりです!』
 おかげで出回ってる魚介の種類も増えてたんで、今回はタイそっくりのタタイっていう魚とカキそっくりのカーキっていう貝も購入した。
 とくに後者はいくつかの場所を回ってかなりの量を確保したんだけど……
「フフフ……今日の夕飯のメニュー、ハナちゃんならわかるよね?」
『まさか……!? もしかして……!! 揚げちゃうんですか……!?』
「フフフ……そのまさかです」
『きゃー!!』
 やっぱりカキと言えばアレだよな、アレ。今から楽しみだわ。
『おいおい、そんなに叫ぶ程なのかよ』
『なんだ、さっき散々手に入れた貝はそんなに美味いのか?』
『早く食べたーい』
 ってスイちゃん今食べたばっかでしょ。
 ハナちゃんの悲鳴に近い歓声に皆がそれぞれの反応を見せる。ま、まあ俺も食べた直後に次の飯の話をしてるんだからスイのこと言えないか。
 カラッと揚げたアレは間違いないとして、せっかくだし他にも色々作りたいよな~。
「あ、そうだオイル漬けとかどう? ハナちゃん好き?」
『だいすきです……っ!!』
 大好き頂きました。やったぜ。
「そのままツマミにしてもいいし、オイルごとバゲットに乗せても絶対美味いし、パスタに入れてもいいんだよな~」
『夢のよう……!! 合わせるなら何のお酒がいいでしょうか? 何でもおいしく飲めちゃいそうですが……』
「あー、それは悩むわ……ワインならやっぱ白か……?」
『日本酒もいいですねぇ……』
「……しちゃおっか? 飲み比べ」
『……しちゃいましょう! 飲み比べ!』
 そんな風にウキウキ話しながら俺達は商人ギルドへと向かった。
 もちろん途中で冒険者ギルドのギルドマスターのマルクスさんと職員のカルロッテさんを引き連れて。
 俺に知識がないから頼らせてもらってるんだが、なんかこう、毎回冒険者ギルドVS商人ギルドみたいになって申し訳ないやらいたたまれないやら。
 商人ギルド側だって少しでも儲けを出したい、つまり少しでも安く買い取りたい……って気持ちはわからなくもないんだけどさ。
 こういうのはさっさと終わらすに限るね。
 商人ギルドの商談室に通された俺は、冒険者ギルド(マルクスさんとカルロッテさん)VS商人ギルド(ゲルドさんとハインツさん)がバチバチやり合うのを適時確認をしながら見守った。
 ちなみにこういう商談の時、暇を持て余したフェルとスイとドラちゃんは大体寝てることが多いんだけど……
『〝る〟!? おい、何度目だドラよ、いささか姑息ではないか!?』
『ふふん、そういう戦法があるってハナが言ってたからな』
『そうは言ったけどドラくんの〝る〟攻めが強すぎる……!!』
『るるる~~』
 ……こうやって時々しりとりしてるんだよね。うむ、今日も俺の従魔達が仲良し。前にハナちゃんが教えてからたまにやってるみたいなんだが、いつの間にかドラちゃんが強くなってる。

「私共もそれを考慮して────」
「それは可笑しいですね────」

『る……る……る……〝るつぼ〟』
『やっとスイの番ー? ん-とね、えーとね、〝ぼうる〟』
『スイ!?』『スイ!?』『スイちゃん!?』

「安過ぎるということはないと────」
「ですがこれはダンジョン産ですから────」

『えー? あるでしょ、あるじが使ってる銀色のまるいやつー』
『覚えててえらいねぇスイちゃん! ある……! ある……けど……!!』
『やりやがったなスイ……!!』
『ぐぬぬぬ……』

 片や白熱する宝石鑑定値段付けバトル、片や混沌する〝る〟攻めしりとりバトル。
 どっちも聞かされている俺はどんな顔をしていいかわからず、うっかり吹き出さないようたまに下唇を噛みながら「カルロッテさん、どうでしょう?」「はい、とくには……」と受け答えに専念するのであった。
 笑っちゃダメだと思えば思うほど笑いそうになるよね。危なかったマジで。
 その後無事に交渉は終わり、金貨970枚分の取引になった。
 適正な値段を出しながら駆け引きをしてくれたカルロッテさんと、「これくらい恩返ししないと罰が当たるぜ」って査定の代行・同行の費用をタダにしてくれたマルクスさんには感謝だな。
「だからまたお礼にパウンドケーキでも焼こうかなって」
『いいですねぇ。絶対喜んでくれると思います!』
 そんな会話をしながら借家へ帰った。
 夕飯は当然カキフライに決まってます。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 山盛りのカキフライをたらふく食べた後、俺とハナちゃんは作業のためにキッチンに立った。
 カキフライ、いやカーキフライか。カキよりデカかったけど味はそのまんまカキでかなり食べ応えがあって美味かった~。
「カキ、評判よかったし今度はカキグラタンとかもいいよねぇ」
『グラタン!! とくにスイちゃんがすきそうじゃないですか?』
「あー、わかるわかる」
 みんな全部(フェルは野菜以外)美味い美味いって食ってくれるものの、これだけずっと一緒に飯食ってると好みもわかってくるよな。例えばハナちゃんで言えば海鮮のフライには醤油派とかね。でもさっきは俺の自家製超簡単タルタルソースに感激してくれて、交互に味わってくれてて嬉しかったわ。
「さて、準備も出来たところでカキのオイル漬けとパウンドケーキを作ります」
『はーい!』
 と言ってもどっちも簡単なんだけどね。
 オイル漬けの材料はカキ、酒、オリーブオイル、ニンニク、黒胡椒、鷹の爪、オイスターソース。今回は彩りに乾燥パセリを入れてみる。ハーブを足してもいいが、今回はシンプルに。
 カキはさっきカキフライを作る時に多めに下処理したので、それを使っていく。塩水と片栗粉で洗って汚れと水気を取ったカキがこちらになります。
 ニンニクは皮を剥いて薄くスライス。鷹の爪も輪切り。これはハナちゃんが風魔法で一瞬でやってくれました。
 まず最初にカキに少しだけ酒を振って揉み込んで、軽く水気を切っておく。
「風味付けと臭み取りにちょっとだけね」
『なるほど……!』
 フライパンに薄切りにしたニンニクとオリーブオイルを入れて中火にかけて、ニンニクの良い香りがしてきたらカキを入れる。
「あ、結構油はねるから気を付けて!」
『は、はい!!(優しい……!!)』
 オリーブオイルとカキを馴染ませながら黒胡椒、鷹の爪も入れていく。炒めてしっかりめに水分を飛ばしたら、オイスターソースを入れて、っと。
 軽く炒め混ぜたら調理工程は終わり。
 あとは耐熱の保存容器に移して、上からオリーブオイルを少しだけ足して乾燥パセリを振って完成だ。
「……」
『えっそんなまさか……向田さん……!?』
 無言のままネットスーパーのウインドウを開くと、動揺半分期待半分の声でハナちゃんが俺を呼ぶ。
「……数日おいて味が馴染んだやつも冷やしたやつも美味いけど、出来たての今も美味いとされています」
『!!!』
 味見するなら酒も必要でしょ!!
 賛成でーーーす!!!

 若干二名による満場一致により、俺達はキッチンで乾杯するのだった。
 パウンドケーキ? ほろ酔いのままご機嫌で作りましたとも。  

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