閑話 お下がりと花吹雪(前編)

「良い買い物が出来て良かったね」
『はい!』
 買ったばかりのお皿とお茶碗を、こっそり路地裏でアイテムボックスに入れました。
 これも向田さんと相談して決めたことの一つ。
 アイテムボックスはとても便利ですが、それ故にレアリティが高めです。本来なら持ってる人が少ないスキルだそうで。
 私も向田さんも召喚された身ですので、二人とも持っています。
 流石に二人ともって言うのはちょっと……。
 周りに不審がられてしまうのでは、と話し合って、私が持っていることはなるべく内緒にすることになっています。無理のない範囲で、なるべく。
 そうなると……鞄、欲しいかも。
 今まで必要になる場面がなかったので意識していませんでした。手ぶらでお買い物は変ですよねぇ。
 今後はステルスも控えめにしていく方針ですし、こうやって私個人が買い物をする機会も増えるかもしれません。
 そんな風に向田さんに伝えてみると、
「確かに鞄はあった方がいいよなぁ。街を出る前に時間はあるし、ついでに探そっか。そうだ、鞄に小さ目のマジックバッグ入れてるんですーって言っておけばハナちゃんも人前でアイテムボックスが使えそうじゃない?」
 相変わらず優しい上にそういうことを考え付くのがお上手……! 流石向田さん……!!
 もちろん褒めちぎらせて頂きました。拍手もしました。流石向田さん!
 ただ、鞄、と考えて出てくるのはランベルトさん。
 カレーリナの街に行って、実際にお店を見て回るのはちょっとした夢です。
 どうせ買うならランベルトさんのところで……なんて思っていますが、次にカレーリナに立ち寄るのはいつになるかわからないしなぁ。
 向田さんがワイバーンの皮をランベルトさんに預けて、加工をお願いされてるので、ゆくゆくは念願叶う日も来るはずですが。
 次の目的地は海ですし、その次はダンジョンですし。
 うーん。
 ……あ。
『そう言えば、向田さんが前に使ってた鞄って捨てちゃいましたか? その、もしよければお借り出来たらと……』
「え? 多分アイテムボックスに入れたまんまになってる……けど、大分汚れちゃってるし穴とか空いててボロボロだよ」
 ふふふ、知ってます。アレを使わせるのもなぁ、と申し訳なさそうな向田さんでしたが(優しい……)、私がいつかランベルトさんのお店に行ってみたいと思っているのは向田さんもご存知だったので、それまでの繋ぎとしてならまあ……とご了承頂けました。
『ありがとうございます、向田さん!! 助かりますっ』
「ぜ、全然いいよこれくらい。どういたしまして(な、なんかすっごく喜んでくれてるな)」
 ……向田さんのお下がり! と内心テンションが上がっちゃったのは内緒です。
 お借りする鞄は、あとでゆっくり出来る時に、お昼の時にでも見せてもらうことにしました。
 急ぎでもないから、旅の合間に少しずつ綺麗にしよう。布製の鞄だから、洗ったり縫ったり出来るよね。今世初のお裁縫チャレンジ!
 話がまとまった後は商人ギルドへお借りしていた家の鍵を返しに、冒険者ギルドへは昨日お願いしたオーク肉を受け取りに行きました。
「フォッフォッ、ハナさんにも世話になったのう」
 ヨーランさんはアロマテラピーサシェをずいぶん気に入ってくれたみたいで、正式な商品化の際は是非声をかけて欲しい、と言ってくださいました。う、嬉しい……!
 何度も頷いて握手して、お別れして来ました。
 誰かに喜んでもらえるのって、こんなに嬉しいことだったんだなあ。
 じんわり込み上げるあたたかさに胸がいっぱいになっていると、やっぱり向田さんが「良かったね」と目を細めてくれて。
『……はい』
 今度は別の意味で胸がいっぱいになってしまう。
 今日も今日とて向田さんが、すきです。
 そんな実感を噛み締めながら、ネイホフの街を出発しました。

 フェル様の背中に(恐れ多くも)乗せてもらって、私達はどんどん進んでいきます。
 背中に乗せてもらうのは初めてではないですし、何度も体験しているんですが、風を切りながら走る感覚に、何度でも感動してしまいます。
「おいフェルちょっと速いってーー!!」
『む。早く着いた方がよかろう』
「だからって限度があるからーー! ハナちゃんは平気!?」
『え!? はいっ!! 大丈夫です楽しいです!!』
『ほう、ならばもう少し速度を上げるか』
「待っ――――」
 きゃー! フェル様お速ーい!!
 それと単純に向田さんと距離が近くて、う、嬉しい……!
 だってフェル様ってすっごく速くって、向田さんと一緒に乗ってると、どうしても密着するというか。
 一番最初にフェル様の背中に乗せてもらった時にそうしたからか、自然と向田さんが前、私が後ろの順になってます。
 後ろから抱きついているわけではないんですが、バランス的に蔓をこう、ぐるぐるーと腰の辺りに巻き付かせてもらってまして……。
 旅の間、つまりフェル様で移動している間は、だいたいずっと近いんです。
 ……嬉しい!
『何ニヤニヤしてんだよ、はしゃいんでんのかー?』
『えっ?! あ、あはは……そうかも……』
 ど、ドラくんに笑われた。自分でもニヤニヤしてたのがわかるから余計に恥ずかしい……。
『まあこうやって思いっきり羽伸ばせるのも久しぶりだし、気持ちはわかるぜ』
 そう言いながらドラくんはくるくる回転しながら飛んでみせた。言葉通りに羽を伸ばしてるので思わず笑ってしまう。
 というかフェル様のスピードにも負けずに並走しつつ私の表情も見れるなんて、さすがだなぁ。
『なんだよそんなにジロジロ見て』
『あ、ごめんね。改めてドラくんすごいな速いなーって思って』
『へへ、だろー!? そういうことならいくらでも見てていいぜっ』
『ふふ、ほんと? ありがとうドラくん』
 私の言葉に気をよくしたのか、ドラくんは更にぎゅんっと速度をあげた。わーすごーい!!
 ……久々の旅はまだまだ新鮮で。
 ドラくんの見てるだけで気持ちがいい飛びっぷりと、フェル様のさらつやもふもふ座り心地とハイスピード、そして何よりも向田さんとの距離の近さに浮かれていた私は、
「だから速いってえええええええぇえぇぇぇ……」
 ……という向田さんの声にならない叫びに気付くのに遅れてしまったのでした……。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 フェル様が『そろそろ腹が減ったな』と言って止まった場所で、そのままお昼休憩になりました。
「おいフェルっ、速けりゃ速い程いいってもんでもないんだからなっ!?」
『フンスッ、速い方がいいに決まっておるだろう、主が脆弱すぎるのが悪いのではないか?』
「……そうかそうか、昼はフェルだけ肉無しと」
『おいっ』
 青い顔をしながらもフェル様にきっちり文句を言いつつ、お昼を準備してくださる向田さんには頭が上がりません……。
『向田さん、大丈夫ですか……? すみません気が付かなくて……!!』
「い、いやいやハナちゃんは気にしなくていいよ、フェルの奴が調子に乗っただけなんだし」
 そう向田さんが言ってくださるけど、私がうっかり『楽しいです!』と答えてしまったせいですよね……。
『……いいえ、これからきちんと気を付けます! 不敬ではありますが、フェル様だって蔓でなんとか止めてみせます……!!』
「そ、そんなに!?」
 だって。
 向田さんに耐えられない速度にも私は耐えられてしまう、それどころか楽しめてしまう。
 わかっているつもりで、まだ、きちんと自覚していないんだと、改めて突き付けられた。
 今の私は、人間じゃない。
 向田さんと私は、別の種族。創造神様のおかげで、人に似せてもらってるだけ。
 アルラウネになることを選んだのは他でもない自分自身だから、それが悲しいとか寂しいとかは言わない。
 ちゃんと弁えて、考えて、理解していかなくちゃ。
 じゃないとまたこんな風に、向田さんがご負担を強いられていることに気付けない、なんて事態になりかねない。
 それは、それだけは、嫌ですからね……!!
 本当に気を付けよう、と肝に銘じました。
「(うーん、ハナちゃんちょっとしょんぼりしてるな……ホント気にしなくていいのに……)……あ、そうだハナちゃん」
『?』
「今日買った皿、早速使ったら? フェルとドラちゃんにはまだ見せてないし」
『! そうですね、そうします!!』
「(よしよし、元気になったな)」
 嬉しい提案に、いそいそとアイテムボックスから買ったばかりのお皿を取り出しました。使う前に軽く水魔法で洗い&風魔法で乾かし。
 向田さんの鞄から起きて出てきたスイちゃんが、お皿を見てぴょんぴょん跳ねる。可愛い。
『うふふー、これスイのでしょー』
『ふふふ、そうだよスイちゃん。もう覚えてくれたんだね』
『スイ、皆の覚えてるよー。えっとねー、この青い線がひとつ入ってる白いのがフェルおじちゃんのでー、スイのはこっちの白い線がひとつ入ってる青いのでねー、この青い線がふたつ入ってる白いのがドラちゃんのー!』
 スイちゃんは私の並べていくお皿を一枚一枚、得意げに説明してくれた。
『でねー、そっちのちょっと形が違う白い線が入ってる青いのがあるじのでー、青い線が入ってる白いのがハナちゃんのなのー』
 お皿……というか、深さと厚みがある、大ぶりな焼き物と、ご飯茶碗にぴったりな小ぶりな焼き物。
 私が並べ終わると、フェル様たちのお皿にはあらかじめ作り置きしていた野菜炒め(フェル様への意地悪……じゃなくてちゃんとお肉入りでした)などを向田さんがドカドカ盛っていき、皆喜び勇んで食べ始めた。
「はい、どうぞ」
『……ありがとうございます! いただきます』
「召し上がれ。俺も食おっと……いただきます」
 フェル様と、スイちゃんと、ドラくんと、向田さんと、私の手元に、同じ白と藍色。
 よそってもらったほかほかのご飯と同じくらい、お揃いが、すごくうれしくて。
 いつも美味しいご飯が、もっともっと美味しく感じられました。
「(……俺、今普通に茶碗渡せたよな? ハナちゃん全然気付いてないもんな?? やっぱりコレ、何度見ても夫婦茶碗にしか見えないんだけど……いやいや……そう変に意識ばかりするんじゃない向田剛志……いやでも……)」
『おかわり』
『おかわりー』
『おかわりっ』
「ハイ喜んでーーーーー」
『(向田さんが急に店員さんみたいになった……!?)』

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